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北九州市環境ミュージアム館長 諸藤見代子さん

(特活)国際理解教育センター
日立環境財団プロジェクトチーム
聞き取り調査

実施日時 2011年8月11日
対象 北九州市環境ミュージアム館長 諸藤見代子さん
聞き取り調査者 角田季美枝、角田尚子、足立恵理

1. 現在の日本社会におけるリスクコミュニケーションについて、何が課題だと思われますか。

・伝える意識のある人の育成が必要です。伝える側のスキルアップ(情報収集力、伝達のスキル)です。
・また、情報を受け取る側も、冷静に判断できるスキルを身につけることが大事だと思います。恐怖にあおられ不安が大きくなると、どの情報を信じていいのか分からなくなってしまいます。様々な角度からの情報を収集、選択し、自分なりに分析する力を身に付けることも課題なのでは。
・情報の受け手が自ら判断できる多角的複眼志向の「モノサシ」をつくれるような環境教育の推進が求められています。

2. 特に3.11以降、活動への影響にはどのようなものがございますか?

・ミュージアムの展示には特に3.11を意識した展示を増やしていないのですが、講話などで東日本大震災の話をすると、聴いている方の目つきが変わることに気づきます。今までの自分の生活を見直そうと考えていらっしゃる方は確実に増えています。今後はエネルギー問題や暮らし方について、自分たちの生活の中やまちづくりの中でどのような取組みが出来るか考えていきたいと思っています。

3. 日本社会の状況に対して、貴団体・組織がめざす貢献は何ですか?

・環境ミュージアムにかかわって約10年の実感ですが、人は学べば変わります。
・北九州の公害の経験や市民の取り組みを次世代の子やアジアの人々に伝えていくことです。自分たちの住むところは、自分たちで環境を守るという姿勢を発信していきます。
・自分の街に誇りを持っていない世代は、自分の子ども達に北九州市の経験を伝えることが難しいようです。地域を愛する子どもをつくるために、これまでの取り組みをいかして学校の先生や地域・行政と連携して環境教育を進めていきたいと思っています。
・周りの人とコミュニケーションをとりながら、自分たちのくらし方、生き方について語りあえるような場を作っていきたいです。

4. これまでの貴団体・組織の実践から、学んだこと、今後に活かしたいことは何ですか?

・家族の健康を守りたいからこその環境の力・市民力が生まれました。製鉄所等からの煤煙公害について、感情に訴えるのではなく科学的論証がないと工場の人にわかってもらえないと戸畑の婦人会のメンバーは自らデーターをとり(シーツや菓子折りの空箱を使って煤塵による汚染を測定し記録をつけグラフ化)、工場や市役所の担当部署と交渉して、工場の集塵装置の設置をさせ大気環境の質の改善を進めてきました。市民の科学力というべき行動によって、企業や行政に「証拠」を見せていったことが改善につながっています。市民、企業、行政の争いではなく、話し合いにより街づくりを進めていきました。これらの取り組みがあって、現在、北九州市の環境首都、低炭素のスマートグリッドシティの実践になっています。環境のまちは一日にしてならず。長い時間と経験を通して人と人との関係つくり、仕組みつくりを行っていく大切さは今の時代にも生かされるのでは。相手の非をせめお金で解決するのではなく、技術の力で解決することを望んだ北九州市民の歴史は誇れると思います。
・戸畑の婦人会の活動の記録やあまり見ることが出来なかった公害記録映画「青空がほしい」を環境ミュージアムで展示しています。環境ミュージアムでは北九州の公害の経験や市民の取り組みをさまざまな展示(過去の汚染の実物展示、戸畑の婦人会の取り組みの活動紹介、ジオラマプラスナレーションのラジオラマ、九州の素材をつかった最新の環境技術を取り入れたエコハウス、公害の経験者も一緒につくったオリジナル学習プログラム、イベント、出前環境講座などや隣接する北九州イノベーションギャラリーとの見学連携)で伝えています。また、過去の公害を経験された方(企業、市民)が環境学習サポーターとして、見学に来られた方に、紙芝居、実験、クイズ、ゲーム、工作など、さまざまな方法で自分の経験や環境を守るメッセージを直接伝えています。
・地域で市民科学力を蓄積していくこと、公害を知らない世代に過去の経験をつなげていくこと、また、アジア各国にこの経験をつないでいくこと等を通じて、自らが環境汚染問題を解決するプロセスに参加することの重要性を伝えていきます。

5. 今回わたしたちが開発しようとしている教材および人材育成プログラムについて、ご提案などございますか。

・「見えない」放射性物質のリスクに関する教材やファシリテーションのスキルをアップするような教材をぜひ開発してください。

(注)上記は、角田季美枝が草案をまとめ、諸藤さんに確認、加筆修正いただいたものである。

【ご紹介いただいた参考資料】

・北九州市環境ミュージアム「北九州市環境ミュージアム」リーフレット
・北九州市環境ミュージアム「北九州市環境ミュージアム概略」
・「北九州エコハウス」リーフレット
・北九州市環境局「青い空を見上げて-北九州市環境学習サポーター体験紙芝居・物語」(小学校高学年用環境教育副読本、別冊公害克服編)北九州市、2006年3月
・北九州市教育委員会監修「3年生・4年生みどりのノート みんなで考えよう! みんなの地球」北九州市環境局、2010年3月
・中原婦人会『50周年 中原婦人会』2001年1月
・青空がほしい①②⑦「舞台再び」「朝日新聞」1993年11月23日ほか
・「女性市民運動による公害克服の歴史」(毛利昭子氏のお話のまとめ、文責:森本美鈴)
・山田真知子「洞海湾の環境改善 サクセスストーリーを担ったのは」(特集 瀬戸内海研究フォーラムin福岡)
・「北九州市エコツアーガイドブック 公害克服編~環境再生の道 そして世界の財産へ~」北九州市環境局環境首都政策課、2009年10月(3版)

【北九州市環境ミュージアム施設概要】
・開設:2002年4月オープン
・面積:敷地面積約4,100m2、延べ床面積約2,060m2
・総事業費:約20億円(用地費約5億円、建設費約10億円、展示施設約5億円)
・年間委託料:7366万6000円(平成23年度)※1
・主管課:北九州市環境局環境学習課
・指定管理者:タカミヤ・マリバー 里山を考える会 共同事業体
・利用者数:平成22年度111,919人(累計1,027,987人)※2
・インタープリタースタッフ:10人※3
・事務スタッフ:4人※3
・環境学習サポーター:68人(2011年9月13日現在)※1
※1 2011年9月13日、北九州市環境局環境学習課に電話で聞き取り。
※2 北九州市環境ミュージアムに対する「指定管理者の管理運営に対する評価シート(評価期間:平成22年4月1日~23年3月31日)」より
※3 北九州市環境ミュージアムウエブサイトより(2011年8月22日確認)

by focusonrisk | 2011-09-13 17:03 | 聞き取り調査