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JAEA リスクコミュニケーション室 高下浩文氏

実施日時 2011年6月27日  13時30分から15時30分
対象  JAEA リスクコミュニケーション室 高下浩文さま
聞き取り調査者 *角田尚子、梅村松秀、角田季美枝、福田典子
点検の視点資料「環境教育としてのプログラム評価の視点」第一次とりまとめ

1.現在の日本社会におけるリスクコミュニケーションの課題

JAEAのリスクコミュニケーション室は10年ほど前に始まりました。結論から言うと、二つあります。一つは欧米と日本の違いがあると思っています。個人的な意見を言わない。単一民族で多様性に慣れていない。リスクコミュニケーションのために住民参加のメンバーを選ぶ時、多様性を考慮することが求められます。しかし、それが難しい。また、話し合いの場でも、権威になびき、少数派を尊重しない風土があります。そこが多様性が当たり前の社会との違いだと思います。
小さい頃からの慣れなのでしょう。

二つ目は、リスクコミュニケーションには、住民、事業者、行政の三者が対等な立場で参加することが大切です。しかし、知識情報をもっている側が力をもってしまう。一方で住民側にも責任ある参加の覚悟ができていない。

今回の事故で、気づくことは、リスクコミュニケーションというのはリスクの存在を前提にしている。リスクというのは確率なんです。原子力施設は、基準値内ではありますが、放射性物質は一部出ている。しかし、住民は知らないし、住民感情としては、そのことを受け入れられない。「絶対安全」、ゼロリスクが求められているように思います。

問題提起をしているのは東海村の住民よりも、その回りの地域の人です。東海村にはベネフィットがある。多少のことは問題にしない。

リスクコミュニケーションが大切だということになったのは、1999年のJCOの事故以来です。信頼回復のために取り組みが始まりました。その頃JAEAは「動燃」と呼ばれていた時代です。1995年のもんじゅのナトリウム漏れとか、1997年東海におけるアスファルト爆発火災など、二年に一回ほどの事故が続き、原子力に対する厳しい目が続きました。再処理施設を再開させるために東海村との9項目の約束をかわしました。そこに、村から地域とリスクコミュニケーションをしなさいよ、という項目が入っていたのです。ニーズや不安に答えてほしいと。

そこで、2001年、研究班をその当時の東海事業所内各部からの構成員でつくり、20ヶ月で仕組みづくりを行うことになりました。事務系からの参加者も入れました。結局、その後もとりまとめを行う「室」を残すこととなり、2005年から8-9人の体制で始まりました。現在は6名になっています。

2.日本社会に対しての貢献

少ない資源の国で、エネルギーを得るために核燃料サイクルの確立をめざす。そのためには、国民の理解を得て、事業をすすめていく必要がある。そのために、ニーズや不安に対して、答えていく。
リスクコミュニケーションはいまの体制では一週間に一回ほどしか実施できません。これまでは茨城県内での実施が求められていたのですが、いまは福島県内からの要望もあります。主催者からニーズを聞いて、準備するのでこの程度しか実施できないのです。

3.今後に活かしたいこと

リスクコミュニケーションを通して、信頼関係が築けた人は、今回の事故でもパニックを起こさなかったし、回りの人にも、伝えていたと聞きました。このようなネットワークや、メッセージ作成ワーキンググループ(注1)などの試みが広がればいいと思います。
利害がなければ、人はリスクコミュニケーションの場に来ないです。ですから、いまのようにどんどん開催の要望が来るなんてことは、これまではなかった。来ないので、ベントナイトせっけんづくりなどと、セットにしてすすめていた。事故があって、人の関心が高まって、開催してくれと言われるようになった。
これまでのリスクコミュニケーションの場にも、反対派の人がくることはなかったですね。大きな会場で、全体討議の場で発言してやりこめることはできますが、リスクコミュニケーションの小グループ活動では、そのような力の発揮もできませんから。

ゼロリスク、all or nothingで考えている限り、不安はとれないでしょうね。

4.今後のプログラムなどへの提案

コミュニケーター登録制度があります。120から130人の人がいます。事業所職員の約1割です。また、スタッフの力量や資質をはかる項目があり、模擬リスクコミュニケーションの場で、チェックしたりしています。しかし、コミュニケーターは、本来業務の上に行う追加的業務なので、実践上、日程調整や派遣する人材確保などに難しさがあります。

人材育成の研修講座の枠の一つに入りました。必要性は、社内的にも理解されてきたということでしょうか。

5.その他

「原子力ムラ」という意識はありません。ただ、そうなのかなと、思うことはあります。

(注1) JAEAリスクコミュニケーション室の取り組みとして、住民と事業所の協働によるメッセージ作成のための作業グループ。

【参考資料】
高下浩文氏 原子力のリスクコミュニケーション
http://www.soc.nii.ac.jp/aesj/division/sed/forum/forum2010_2/takashita-kouen.pdf
リスクコミュニケーション室 郡司 郁子氏 「放射性廃棄物ワークショップ全国交流会 in 瑞浪」平成23年3月6日 発表資料
http://www.jaea.go.jp/04/ztokai/katsudo/risk/others/index.html

【参考情報】
2011年4月2日 原発モニター経験者の方に対するインタビュー。jidai.tv
直後に栃木県まで逃げていた東電社員の家族達。自分たちが逃げるということを人には告げずに。
http://www.youtube.com/watch?v=EcF_75slgwk

by focusonrisk | 2011-07-11 17:39 | 聞き取り調査