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東京大学大学院総合文化研究科 藤垣裕子 教授 インタビュー

(特活)国際理解教育センター
日立環境財団プロジェクトチーム
聞き取り調査

実施日時2011年7月22日 午後2時から午後3時10分。
対象東京大学大学院総合文化研究科 藤垣裕子 教授
聞き取り調査者角田尚子


1. 現在の日本社会におけるリスクコミュニケーションについて、何が課題だと思われますか。

今回の放射線被ばくについて、専門家ごとに言うことが違っているという事態は、いくつかの背景があります。
・安全基準の参考レベルを出しているICRPも、緊急時と中長期とでは値が違う。
・ネットメディアとマスメディアとでは情報が違う。
など、判断の目的も、情報源も多様。

被ばくの安全基準については、人間の健康に関することなので、コホート研究のような実証研究、実験ができない。そのために、過去のデータ、広島・長崎の被爆者の疫学データ、核実験(ビキニ、マリランガ)、原子力事故(チェルノブイリ、パロマレス他)など、経験値からわかることから探るしかない。結果として、グレーゾーンがとても広い問題です。
そのグレーゾーンのどちらの側をとるのかは、どの専門分野かというよりは、それぞれの専門家の価値観なのだと思います。そして、どの安全基準を社会的に採用すべきかは、この場合、専門家が決められる問題ではありません。
同じ専門分野の中でも、意見の不一致があります。不一致がある方が、科学としてはふつうの姿です。

例えば、これはイギリスの教科書 ですが、高校生を対象として、「科学者の意見はいつでも一つに定まるわけではない」ことを教えています。(p.90-91 ideas about sicence)
一方で、日本では、教科書もいつでも答えが1つに定まるものとして理科を教えています。そして、それが入試で試されるのです。それが一般の人々の専門知に対する過大な期待につながっているのではないでしょうか。科学的なリテラシーの大切さだけでなく、どういう科学観を持っているかということも関わってくるのだと思います。
しかし、今回の原子力事故や報道で、我々が学んだこともあるのではないでしょうか。専門家なんて当てにならない、自分で判断しなければだめなんだ、ということが広く共有されてきたと思います。

科学技術社会というのは、個人に判断がまかされる。個人が科学リテラシーをもって、自分で判断する。こどもには、大きくなったらそういう判断が求められるようになるのだよ、だから理科を勉強するんだよ、と説いてあげる。

GCSE Science Higherの構造を見てみると、生物学(B), 化学(C), 物理学(P)などの分野ごとに、例えば、生物であれば「遺伝子操作」の問題、化学であれば「食品添加物」の問題などのように、日常生活の中にある科学の問題として、テーマを取り上げています。アプローチの仕方は、全編が科学のリスクについてのようなものです。
自分で情報を集めて、考え、判断する、きびしさがあります。日本の受け身な学びではないですね。

2. 日本社会の状況に対して、貴団体・組織がめざす貢献は何ですか?

「科学はいつでも厳格な答えを出してくれる」という思い込みによって、これまで、日本政府が対応を誤って来た問題がいくつかあります。水俣、薬害エイズ、そして狂牛病などです。厳格な科学的証明がないと対策がとれないという姿勢によって、被害を拡大しました。水俣病など、そのチッソの排水との因果関係が最終的に確定したのは2002年のはずです。発生してから50年以上たって立証された。対策のないまま患者が増える。「確実で厳密な科学的知見がでるまで原因特定・患者認定をしない」という立場がもたらした結果です。
大切なことは、確実で厳密な知見がでていなくても、今ある知見で最適なことを行うということです。そして、あとで確実で厳密な知見がでてきたあとに、そのときにまた最適なことをすればいいのだと思います。諫早湾の干拓がいい例ですが、計画ができたのが1960年代、その時最適だと考えたことがいまの時代では最適ではない。とすれば、修整すればよい。いまの時代、環境などの配慮が高まった時代における最適は違っていい。「まちがいでした」と謝って変えればいいことです。こういう考え方をadaptive-management(適応的管理)といいます。
以上のように、科学に柔軟な科学観が必要なように、政策も柔軟な政策観が必要です。
日本には、走り出したら止められない、慣性の法則のようなものが強く働くらしいですね。いまの状況を太平洋戦争末期の国民全力戦に突入していくのを止められなかった頃に似ているという人もいるらしいですね。

3. これまでの貴団体・組織の実践から、学んだこと、今後に活かしたいことは何ですか?

大学院生を対象に「科学技術インタープリター養成プログラム」 というのをやっています。理学系と工学系の大学院生を10名ほど集めて、「社会とコミュニケーションする」ことを目的に実施しています。しかし、実際には、自分たち同士のコミュニケーション、つまり専門家の卵同士のコミュニケーションがまずできないといけないねということになるのです。科学者となる人の科学リテラシーをどう育てるかという課題に取り組んでいるということです。
学部の3-4年生を対象にも「異分野交流」に取りくもうと計画しています。
科学における異分野理解をどの段階で行うかは難しい判断です。
学部生がいいのか、大学院生がいいのか、助手になった時がいいのか。
異分野との交流は、迷いを生じさせます。感受性の鋭い人は、そのために、迷ってしまって、遠回りになってしまうこともあるかもしれない。しかし、それは決して無駄にはならないと思います。
ただ、頭の固い人は、そのままの傾向もあります。
「科学者の社会的リテラシー」のためのトレーニングとしては、「自分の研究が社会の文脈におかれた時の意味」を考えてみるように、と言っています。例えば、遺伝子組み換えの研究は、科学の最先端の研究だと思って取り組んでいるのですが、一般の人は専門家とは異なる意見をもっている。彼らは「知らないから不安」なのではなくて、専門家とは違う判断基準や知恵を持っている。
よく科学者は「欠如モデル」で一般の人を見るのですが、それは違います。「欠如モデル」というのは、空っぽなコップだと人のことを考え、そこにどんどん知識を注ぎ込むようにして伝えようとすることです。(注2の本に紹介している)
それに対する反証として、一般の人が、コップ一杯の知識を得ても、科学者と同じ判断になるわけではないことを示したものもあります。彼らの持つ「恐れ」は専門家とは違うのです。

一度、このような内容のことを原子力学会に投稿したことがありますが、「痛みをもって厳しく原子力と科学コミュニケーションを捉えているのは、この原稿だけだ。」というような反響がありました。

4. 今回わたしたちが開発しようとしている教材および人材育成プログラムについて、ご提案などございますか。

さきほど紹介したイギリスの教科書の一章の終わりごとにまとめられている「考えるための問い」などは参考になるのではないでしょうか。
そして、「欠如モデル」から自由になること。ですね。

5. 教科書をつくる際に、ガイドラインの検討も同時に行ないたいと思います。何か、参考にすればと思われるガイドラインはございますか?

大学院生がイギリスと日本の教科書について比較研究をしたことがありました。
まず、「科学はどんどん書き変わる」ことを前提に科学的な力をつけることがイギリスの教科書の明確な目標です。それに対して、日本の教科書には明確な目標がない。あたかも「欠如モデル」のように、生徒の空っぽなコップを知識で満たしてやろうとしているだけのような教科書なのです。
例えば、応用問題にそれが現れています。日本の教科書では物理Ⅱで放射能について学んだ後、「1gのラジウムが、0.25gまでに半減する時期を計算しなさい」となっている。それに対し、イギリスの教科書は「ロンドンからオーストラリアに出張します。あなたの被曝量はどれだけになりますか」という問題が載っています。とても日常に即した問いで、実際的です。
多少なりとも放射線被曝は、飛行機に乗ることであがります。だからこそ、機長や乗務員には乗務時間規定があるのですけれどね。将来、自分が出張することがあるかもしれない。18時間のフライトである。被ばくは避けられない。それでどうするか、と具体的です。

日本における教科書のためのガイドラインや明確な目標の設定ですが、審議会などに入っても、一人の意見では、全体を変えられるところまで行かないようですね。

専門家が市民性を発揮する、一市民として発信するというのは、今回の3.11をきっかけによく見られたと思います。東大柏キャンパスの研究者も、柏がホットスポットになって、活発に発言しました。岩波書店の雑誌『科学』9月号で対談している方もそうです。
しかし、政府の方針が「原発推進」である以上、それに反対する意見を言い続けることは、文科省からの予算配分に響くかもしれない。と考えてしまうと、一市民としての発言を続けることは難しくなるのかもしれませんね。そういう意味では、文科省の予算の及ぶところ、専門家はすべて「金で買われている」そして、市民的発言を封じられているとすれば、そのような予算の決定の仕方も変えなければ、専門家の市民性や公共性は変わらないのではないでしょうか。

4月21日の朝日新聞にのった記事には反響が多くありました。「市民が測定する」「オランダとアメリカを比較して、堤防の高さを議会で決めるオランダと専門家が決めるアメリカ、どちらが被害に強いか」などの論点を含んでいます。
安全基準を決めるのは市民です。

【ご紹介いただいた参考資料】
岩波書店『科学』9月号
『労働科学』11月号
『「フクシマ論」』開沼博、青土社
GCSE Science Higher, 21st Century Science, Oxford 
『科学コミュニケーション論』
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by focusonrisk | 2011-07-29 18:56 | 聞き取り調査

GCSE 科学教育テキスト

GCSE目次

前書き
自己評価
Biology 生物学の分野
B1 あなたとあなたの遺伝子

  A 共通点と異質点
  B 家族の価値
  C 人間宝くじ
  D 男か女か
  E 倫理 意思決定の必要
  F あなたの子どもを選ぶこと
  G 遺伝子セラピー
  H クローニング SFなのか科学が実現する事実なのか
    モジュールのまとめ(科学の説明/科学についての考え方)
B2 健康を維持する
  A どうしたの? 先生
  B 電子レンジの攻撃!
  C みんな抗体が必要だ! 抗生ではなく
  D ワクチン
  E 抗生物質の終わり?
 F 新しい薬はどこから?
  G 連鎖
  H 病気の原因 どのようにしてわかるか?
モジュールのまとめ(科学の説明/科学についての考え方)
B3 地球上の生命
  A 生命のバラエティ
  B いま、変化している証拠
  C チャールズ・ダーウィンの物語
  D 生命はどこから来たのか?
E 関係を続ける
  F 人間の進化
  G 絶滅!
    モジュールのまとめ(科学の説明/科学についての考え方)

Chemistry 化学
C1 大気の質

  A 地球の大気
  B 主な大気汚染物質とは何?
  C 大気汚染物質を計測する
  D 大気汚染物質はどのように生まれるか?
  E 酸化反応の時起こることは何?
  F 原子はどこへ行った?
  G 大気汚染物質に起こること?
  H 大気の質はわたしたちの健康にどのように影響する?
  I 新しい科学技術は大気の質をどのように改善できるか?
  J 政府や個人はどのように大気の質を改善することができるか?
   モジュールのまとめ(科学の説明/科学についての考え方)

C2 素材の選択
  A 正しいものを選ぶ
  B どこもかしこもポリマー
  C 試験期間
  D ズームイン
  E 新しいアイデア
  F 大きな粒子小さな粒子
  G デザイナー素材
  H 持続可能なのか?
  I ライフサイクルアセスメント
  J 合成ポリマーのライフサイクル
  K 抗バクテリアタオルはもっと持続可能な代替案か?
モジュールのまとめ(科学の説明/科学についての考え方)

C3 食べ物の問題
  A 食物連鎖
  B 農業の挑戦
  C 食べ物をつくる
  D 食べ物を保存し、加工する
  E 健康で有害な化学物質
  F 消化と下痢
  G 食べ物と消費者
  H 食べ物のハザードとリスク
   モジュールのまとめ(科学の説明/科学についての考え方)

Physics 物理
P1 宇宙の中の地球

  A 時空
  B 深い時間
  C 大陸移動
  D プレートテクトニックの理論
  E 太陽系 危険だ!
  F わたしたちは何でできている?
  G わたしたちだけ?
  H 宇宙はどのように始まった?
   モジュールのまとめ(科学の説明/科学についての考え方)

P2 放射線と生命
  A 太陽光、大気、そして命
  B 放射線モデル
  C 放射線を利用する
  D 健康のリスクはあるのか?
  E 地球温暖化
  F 気候変動?
   モジュールのまとめ(科学の説明/科学についての考え方)

P3 放射性物質
  A エネルギーのパターン
  B 放射線だらけ
  C 放射線と健康
  D 原子の中の変化
  E 原子力
  F 原子力廃棄物
  G エネルギーの未来
   モジュールのまとめ(科学の説明/科学についての考え方)
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by focusonrisk | 2011-07-28 08:38 | 参考文献

訳語の検討

金澤-------
たとえば、先のregulatory standardは、以下の文章で登場します。これを忠実
に訳すと訳例1のようになるかもしれませんが、私としては訳例2の方が使いや
すいと思います。

Comparisons with a regulatory standard: The amount of arsenic in a
city’s drinking water compared with the standard set by the
Environmental Protection Agency.

訳例1
規制のための基準の比較:市の飲料水に含まれるヒ素の量と米国合衆国環境保護
庁(EPA)による設定基準を比較する。

訳例2
基準値との比較:水道水に含まれるヒ素の測定データを厚生労働省所管の水道法
で定められたヒ素濃度の基準値と比較する。

梅村--------
「米国国家毒性プログラム(べいこくこっかどくせいプログラム、英: National Toxicology Program 、略称:NTP)とはアメリカ保健社会福祉省が実施している化学物質の毒性研究をまとめ、発がん性物質の分類、試験を行う計画である。…」

> > second hand smoke 間接喫煙
> > radon particles ラドン粒子
> > regulatory standard 規制基準
> > organophosphate pesticide 有機リン系農薬

金澤---------
> 新たな専門用語につきまして、梅村様の訳語で良いと思いますが、"second
> hand
> smoke"については、「間接喫煙」でググると、「受動喫煙」ばかりが表示される
> ので、間接喫煙よりも受動喫煙の方が馴染んでいるのかもしれません。
> "regulatory
> standard"については、出てくるのがp.70の囲いの中の一カ所だけ
> なようで、この文章では「基準値」としても良いかもしれません。このヒ素の話
> については、厚生労働省の以下の文書が参考になると思います。
> http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/dl/k08.pdf
>
> 水道水の基準値は、発がんリスク10万分の1以下を目指して決めるのが基本です
> が、現在のヒ素の基準値は、10万分の1よりもはるかに大きいという指摘があり
> ます。ただし基準値を厳しくすると、基準をクリアできない水道水が続出し、か
> なりの対策費が必要になります。基準値を上げる(対策費をかける)べきか否か
> は、それこそリスクコミュニケーションが必要な話と思います。
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by focusonrisk | 2011-07-14 07:40 | 用語集

聞き取り調査実施覚え書き

聞き取り調査実施覚え書き

1.記録のまとめ方針
・時期、参加メンバー、などフェイスシート的情報を記載する。
・ 当日確認できなかった事象の日時や事実について、補足があれば、脚注とする。
・ 公表する際には、「学んだ視点」「ふりかえり」など、分析と評価の視点をプロジェクトチームや聞き取り担当者として入れる。

2.記録作成のすすめ方
・ 聞き取り対象とさせていただいた先方に確認を取る。確認は一週間程度でお願いする。
・ 確認後に、プロジェクトチーム全体で共有する。同席したチームメンバーからの追加情報を求める。
・ 必要であれば、再度確認をとる。これは電話やメールなどで、すばやく行なう。
・ プロジェクトチームとして内容の活用、公表の方法を検討する。
・ プロジェクトの成果については、聞き取り対象の先方にお伝えする。
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by focusonrisk | 2011-07-11 17:43 | 聞き取り調査

環境情報コミュニケーションズ 大歳幸男氏

実施日時  2011年6月27日 16時から17時30分
対象    (株)環境情報コミュニケーションズ   大歳幸男さま
聞き取り調査者  *角田尚子、梅村松秀、角田季美枝、福田典子
点検の視点資料「環境教育としてのプログラム評価の視点」第一次とりまとめ

1.現在の日本社会におけるリスクコミュニケーションの課題

わたしが専門にしているリスクコミュニケーションは化学工場と近隣住民の間をつなぐもの。現在、化学工場から排出されるリスクは決して高くない。住民にとってはほとんどわからないし、においなどが気になるなどの具体的な事柄がない限り関心も低い。PRTRをきっかけにリスクコミュニケーションを日本でも普及させようとしてきた。健康影響がない限り、求められない。環境における化学物質の問題について、授業でとりあげてもらえるように働きかけていくことも必要だろう。

2.日本社会に対しての貢献

環境リスクを低減させる、汚染を少なくするというような住民ニーズと企業とをつなぐことはできてきたのではないか。

3.今後に活かしたいこと

コミュニティを自分たちで守るという意識がない。すべて法律や行政による規制にたよっている。だから住民・企業・行政という三者によるリスクコミュニケーションのニーズがない。工場に対する要望を聞いても、「通勤の車による渋滞問題」のような話が出てくる程度。
地域の団体、町内会なども、そのようなコミュニティ意識があるわけではない。
まわりに住民がいないところで操業を開始したのに、住宅地開発がすすんで、対話が必要となるといったケースが多く、住宅地にこれこれしかじかのリスクのある施設を作りたいから、リスクコミュニケーションから入るというようなケースは少ない。

4.今後のプログラムなどへの提案

沈黙の春などDDT、ダイオキシン問題など、環境における化学物質の問題提起からリスクコミュニケーションは始まっている。行政が法制度を整備することで対応してきた。ハザードマップや工場の情報公開などをすすめようとしたが、テロの対象になるのではないかなど、公表はすすんでいない。
震災が化学工場に与えた影響など、今後明らかになるだろう。
リスクコミュニケーションとは、平常時のもののことで、事故時は、出た物質の残留性や風向きや避難指示などが優先される。重金属の流出などもあるだろうから、理解をすすめる上で、いいチャンスだ。これまで、リスクコミュニケーションと言いながら、行政が上から教えようとしてきた。自分たちで議論するためのハンドブックのようなものがあればいい。

人は「最初に聞いたもの」を信じる。リスクコミュニケーションで大切にしたいことは「これらのことを聞いて、あなたはどう思うか?」なのだが、最初の壁はなかなか変わらない。背景にはリスク・リテラシー、コミュニケーション能力、メディア・リテラシーなどの問題があるだろう。日本の「権威」に弱い風土もあるかもしれない。

多様性を尊重する文化へと、日本は抜け出せていない。
自分では考えようとしない。立場で考える。最初の刷り込みから抜け出せない。
合意形成のためのプラットフォームづくりが下手。

いま、大学生を対象に、リスクコミュニケーションの基盤づくりを試みているが、同じような壁を感じている。
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by focusonrisk | 2011-07-11 17:41 | 聞き取り調査

JAEA リスクコミュニケーション室 高下浩文氏

実施日時 2011年6月27日  13時30分から15時30分
対象  JAEA リスクコミュニケーション室 高下浩文さま
聞き取り調査者 *角田尚子、梅村松秀、角田季美枝、福田典子
点検の視点資料「環境教育としてのプログラム評価の視点」第一次とりまとめ

1.現在の日本社会におけるリスクコミュニケーションの課題

JAEAのリスクコミュニケーション室は10年ほど前に始まりました。結論から言うと、二つあります。一つは欧米と日本の違いがあると思っています。個人的な意見を言わない。単一民族で多様性に慣れていない。リスクコミュニケーションのために住民参加のメンバーを選ぶ時、多様性を考慮することが求められます。しかし、それが難しい。また、話し合いの場でも、権威になびき、少数派を尊重しない風土があります。そこが多様性が当たり前の社会との違いだと思います。
小さい頃からの慣れなのでしょう。

二つ目は、リスクコミュニケーションには、住民、事業者、行政の三者が対等な立場で参加することが大切です。しかし、知識情報をもっている側が力をもってしまう。一方で住民側にも責任ある参加の覚悟ができていない。

今回の事故で、気づくことは、リスクコミュニケーションというのはリスクの存在を前提にしている。リスクというのは確率なんです。原子力施設は、基準値内ではありますが、放射性物質は一部出ている。しかし、住民は知らないし、住民感情としては、そのことを受け入れられない。「絶対安全」、ゼロリスクが求められているように思います。

問題提起をしているのは東海村の住民よりも、その回りの地域の人です。東海村にはベネフィットがある。多少のことは問題にしない。

リスクコミュニケーションが大切だということになったのは、1999年のJCOの事故以来です。信頼回復のために取り組みが始まりました。その頃JAEAは「動燃」と呼ばれていた時代です。1995年のもんじゅのナトリウム漏れとか、1997年東海におけるアスファルト爆発火災など、二年に一回ほどの事故が続き、原子力に対する厳しい目が続きました。再処理施設を再開させるために東海村との9項目の約束をかわしました。そこに、村から地域とリスクコミュニケーションをしなさいよ、という項目が入っていたのです。ニーズや不安に答えてほしいと。

そこで、2001年、研究班をその当時の東海事業所内各部からの構成員でつくり、20ヶ月で仕組みづくりを行うことになりました。事務系からの参加者も入れました。結局、その後もとりまとめを行う「室」を残すこととなり、2005年から8-9人の体制で始まりました。現在は6名になっています。

2.日本社会に対しての貢献

少ない資源の国で、エネルギーを得るために核燃料サイクルの確立をめざす。そのためには、国民の理解を得て、事業をすすめていく必要がある。そのために、ニーズや不安に対して、答えていく。
リスクコミュニケーションはいまの体制では一週間に一回ほどしか実施できません。これまでは茨城県内での実施が求められていたのですが、いまは福島県内からの要望もあります。主催者からニーズを聞いて、準備するのでこの程度しか実施できないのです。

3.今後に活かしたいこと

リスクコミュニケーションを通して、信頼関係が築けた人は、今回の事故でもパニックを起こさなかったし、回りの人にも、伝えていたと聞きました。このようなネットワークや、メッセージ作成ワーキンググループ(注1)などの試みが広がればいいと思います。
利害がなければ、人はリスクコミュニケーションの場に来ないです。ですから、いまのようにどんどん開催の要望が来るなんてことは、これまではなかった。来ないので、ベントナイトせっけんづくりなどと、セットにしてすすめていた。事故があって、人の関心が高まって、開催してくれと言われるようになった。
これまでのリスクコミュニケーションの場にも、反対派の人がくることはなかったですね。大きな会場で、全体討議の場で発言してやりこめることはできますが、リスクコミュニケーションの小グループ活動では、そのような力の発揮もできませんから。

ゼロリスク、all or nothingで考えている限り、不安はとれないでしょうね。

4.今後のプログラムなどへの提案

コミュニケーター登録制度があります。120から130人の人がいます。事業所職員の約1割です。また、スタッフの力量や資質をはかる項目があり、模擬リスクコミュニケーションの場で、チェックしたりしています。しかし、コミュニケーターは、本来業務の上に行う追加的業務なので、実践上、日程調整や派遣する人材確保などに難しさがあります。

人材育成の研修講座の枠の一つに入りました。必要性は、社内的にも理解されてきたということでしょうか。

5.その他

「原子力ムラ」という意識はありません。ただ、そうなのかなと、思うことはあります。

(注1) JAEAリスクコミュニケーション室の取り組みとして、住民と事業所の協働によるメッセージ作成のための作業グループ。

【参考資料】
高下浩文氏 原子力のリスクコミュニケーション
http://www.soc.nii.ac.jp/aesj/division/sed/forum/forum2010_2/takashita-kouen.pdf
リスクコミュニケーション室 郡司 郁子氏 「放射性廃棄物ワークショップ全国交流会 in 瑞浪」平成23年3月6日 発表資料
http://www.jaea.go.jp/04/ztokai/katsudo/risk/others/index.html

【参考情報】
2011年4月2日 原発モニター経験者の方に対するインタビュー。jidai.tv
直後に栃木県まで逃げていた東電社員の家族達。自分たちが逃げるということを人には告げずに。
http://www.youtube.com/watch?v=EcF_75slgwk
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by focusonrisk | 2011-07-11 17:39 | 聞き取り調査

用語集 再点検

p-value
○p値

parent population
○母集団

parts per billion (ppb)
○ppb、一兆分率

perception
○認知

picocuries (pCi)
○ピコキュリー

polymer
○ポリマー

polymerization
○重合

population
○集団
(world populationなど、"人口"、"個体数"の意味でも使われている)

ppb, ppm
○ppb, ppm

prevalence rate
○有病率

primary faults
●一次故障

probability
○確率

probability distribution
○確率分布

probability value (p-value)
○p値

proportion
●割合
(2つの数字の比率を約分したり小数で表したりした値)

qualitative
○定性的

quantitative
○定量的

random variable
○確率変数

rate
○率
(速度の概念が入っており、単位の異なる数値の割合につかう)

ratio
●比率
(2つの数値の比率で、約分しないで表した数字)

relative risk
○相対リスク

right-of-way
●公共施設用地

risk
○リスク

risk assessment
○リスクアセスメント

risk assessor
○リスク評価者 

risk/benefit analysis
○リスク便益分析

risk communication
○リスクコミュニケーション

risk comparisons
○リスク比較

risk management
○リスクマネジメント

risk manager
○リスク管理者

risk perception
○リスク認知

sample
○サンプル/標本 
(water sample のように"試料"という意味で使われたり、Sample histogramのように"例"という意味で使われていたりもする)

sampling
●サンプル抽出

societal risk
●社会的リスク

standard deviation
○標準偏差

statistical significance
●統計学的有意性

TD50
○半数中毒量

Threatened
○絶滅危機(種)

Threshold level
○閾値(いきち)

Toxicant
○有毒物質

Toxicologist
○毒性学者

Toxicology
○毒性学

Toxin
●毒素

Tree diagram
○樹形図

Uncertainty
○不確実性

Values
●価値 
 (p-valueなど、"値"という意味で使われている場合もある)

Variability
●変動

Voltage
○電圧

Wildfire
○野火

Wildland
○原野

Wildland/urban interface
○原野と都市の境界
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by focusonrisk | 2011-07-11 17:35