特定非営利活動法人 市民科学研究室 代表理事 上田昌文さん(その2)

(特活)国際理解教育センター
日立環境財団プロジェクトチーム
聞き取り調査

実施日時:2012年2月25日(月)10:00~12:30
対象:特定非営利活動法人 市民科学研究室 代表理事 上田昌文氏
聞き取り調査者:角田季美枝、角田尚子、福田紀子


2. 現在の日本社会におけるリスクコミュニケーションについて、何が課題と思われますか?

3.11以降の被災や汚染に特化した活動とからめて、いくつか課題と思われるものを紹介しましょう。

3.11以降の被災や汚染などに特化した活動としては放射線被曝、がれきなどについて問題提起されています。約80人の人が参加している会員メーリングリストで、多少なりともそういう分野の知識をもっている人がいろいろアイデアを出してくれます。そうすると、専門家に聞きましょうという前の段階で、そういうところから貴重な情報が得られたりすることもあります。そういうネットワークを手がかりに専門家とのつながりをつくることができる基盤があるということです。

放射線リスクに関する緊急セミナー、ホームページでの「震災救援」のコーナーでの情報発信、「市民科学講座」で公開の場での議論機会の提供、「市民科学談話会」での、当事者や関係者を招いての少人数でセミクローズドな徹底した議論、他団体との連携による取り組みなどもおこなっています。

●研究グループの研究から

個々の研究グループに特化した活動ではたとえば、2年前にできた住環境研究プロジェクトのメンバーが大槌町の漁業関係者と縁があり、大槌町の住宅再建の方法を研究しました。大槌町に足を運んで住民の意見を聞き取りました。

土地制度の問題が根幹にあって、家が流されても土地の所有権が残っているため、公共的な視点で大規模なまちづくりができないことをつきとめて、具体的な提案をまとめましたが、大槌町の政治状況の関係で提案の実現はできていません(*補足情報4)。かかわってくれた専門家の人も含めて、震災後の住まいのあり方のアイデアをまとめて本にしようということを計画しています。

そのほか、三陸湾と東京湾の漁師の震災後の暮らし、震災後のコミュニティFMの力の下支えの必要性、水インフラの問題、エネルギーの問題など、いろいろ提案したい内容があります。たとえば、日本では、コジェネ技術などエネルギー技術がいろいろな分野で開発されているのですが、市民がそれを一覧する機会が少ない。太陽熱で温水をつくるのと太陽光パネルで温水を作るのとどちらが効率がよいのかなど、市民にとって身近なことなのに定量的に示されていませんし、体験できる場もありませんので、そういうような活動ができればいいなと思っています。

●内部から変えられない原子力の状況

マスコミの論調が、原子力について、御用学者かそうでないか、原発推進か脱原発かなど二項対立的になっています。原子力の内部にいる人は外にいったらたたかれると思っているが、原子力ムラに問題があることもよくわかっているという、濃厚なジレンマを感じていて、人によってはひきこもってしまって出てこないといううわさも聞いています。これはどうにかしないといけないということで、友人のツテを通じて場をつくってもらって、原子力関連の専門家、原子力委員会の委員の方、そして大学院生、学生などに集まってもらって率直にオフレコでしゃべってもらうことをしました。

今後、原子力をやめていくにしても核廃棄物などは残るわけですし、どう体制を変えるのか、内部の人に考えてもらい外部の人とやりとりしてもらう場を作る必要があります。学会で発表しましたが、この問題は非常にむずかしい。利権がちがちの構造を脱却しないといけないが、研究者は自分の研究を残していきたい、今後の研究資金はどうなるのか、という心配をしている。しかし研究を全体にどう変えていったらいいのか話し合いの場がなく、経済産業省の審議会などで決めてもらえば従うというように、内部からこう変えていきたいということがない。非常に問題なのです。

●お母さんの発案で始まった「放射能に関する親子ワークショップ」

私は放射能の専門家ではありませんが、5年前から低線量被曝の研究会を組織して勉強ををしていたため、ICRPの勧告、ECRRの報告書など読んでいてバックグラウンドができていたので、今回の事故がおこってリスクをどうしたらいいのかという講演を各地でする機会も増えました。

その中で、世田谷のお母さんからリクエストがあって、放射能について子ども自身がいい形で知っていく形を考えられないかということで、親子ワークショップを世田谷でおこないました。

親子10組、2時間ぐらいで5回ほど実施しています。最大20組ならできるかもしれません。

ワークショップでは、ふだん感じている、考えていることをいろいろ出してもらってそこから組み立てます。子どもから引き出す面が大きいので決まりきったことを教えるタイプではありません。最後は子どもたち自身が自分で測定して自分で考えてもらったり、さらに親だけ残ってもらって質疑応答しながら考えることをしています。

具体的な内容ですが、食べ物のことをどう伝えたらいいかと考えて、買い物で考えてもらっています。

「いまからいろいろな食材を見せますので、お母さんと買い物リストをつくってみてください」

そして、実際に作ったリストに、実測したデータをあてはめて、1回の食事、買い物で何ベクレルぐらいになるかお互いの買い物リストで比較してみましょうと進めます。グループによって差が出ます。なぜそうなるのかの話し合いを進めます。

この内容はけっこう実用的で、やってみて非常に好評のようです。

お母さんのアイデアが結構大きくて、地域で子どもたちを守ろうという経験が生かされていておもしろいと思います。

放射能がらみではあと2つ行った活動があります。

●実現後に問題がおこった「福島の子どものフィルムバッチ調査」

ひとつは福島の子どもたちにフィルムバッチを持ってもらうことです。伊達市で実現し、その後福島市にも広がりました。子どもたちは線量の高いところで生活をしています。将来的なことを考えると、どれぐらい浴びるのか把握しておかないといけません。医療関係の人がもつクイックセルバッチをある期間つけておいてフィルムを送って累積線量を計算してもらうのであればいいのではないかと考えました。

そこで、バッチをたくさん借りるとどれぐらい費用がかかるか企業に問い合わせたところ、事態も事態だから安くできますといってくれました。これなら市議会にもっていってもいけるのではないかと、福島に講演に行ったときに呼んでくれた人がいろいろなつながりをもっていたので、その方の友人であるPTAの会長さんを通して知り合いの市議さんに提案してもらったところ、伊達市で通ったのです。伊達で通ったので福島市でも、というわけで、はるかに大きい規模のお金で子どもたちに線量計をもたせることができたのです。

しかし、実現したけれどいろいろ問題が生じています。地域によっては、ある線量以上の高い結果を示さないとデータは教えませんなどとなっています。あとあとのケアの参考にするために子どもたちにずっとつけてもらわないといけませんので、協力が必要ですし、それが大前提というか、きちんとした諒解がないとだめなのに。

子どもたちを安心させるために使っているのに、高い線量以外なら問題ないですよ、となっていて、批判がつづいています。親たちからは「子どもたちをモルモットにするのか、データだけとるのか」という批判が当然出てきています。

それは福島県民健康管理調査のリーダーが山下俊一さんであるということにも関係しています。ああいう人をトップに据えての調査でほんとうにちゃんとやってもらえるのかと批判があって、県民健康管理調査の問診票の回収は2割程度と聞いています。これではデータとして使えないのではと不安になります。そういう中で、クイックセルバッチの調査が組み込まれているわけです。

問題は、個人にデータを戻すなどのルールを市議会が文書化して残してしなかったことにあります。倫理委員会をつくるなどの経験がないから、そのあたりが曖昧になってしまったように見受けられます。

福島の子どもたちの健康をどういう視点から調べてどういうケアが必要なのかを含めて全体で納得してもらえるか、本当に問われていると思います。福島に関してリスクをどうとらえるか、リスクで統一的見解を出しにくいにしても、社会的なケアを含めてどういう対処をしていったらいいのかを考える必要があります。政府なり責任ある機関がどう動いたら、人びとが本当の意味で的確に反応して安心感をもって対処してくれるのか、ということの見通しが甘すぎます。

この県民健康管理調査に20年間782億円の資金を投じることになっていて、かつてABCC(原爆傷害調査委員会)が中心になって行われた広島・長崎の日米合同原爆調査の延長線上に位置づけることができるものです。健康管理調査のデータの出し方などを見た上で質問状や意見書を出しています(*補足情報5)。一歩一歩するしかありません。

●食品の放射能汚染測定データのメタ解析を通じた提案

自治体、市民団体などいろいろなところが、食品の放射能汚染の測定活動を実施されていますが、測定の精度や結果をどう判断するかについてもいろいろです。

またデータを見ていくと、農作物の中に放射能が容易に入るものではないこともわかります。測定の合理化も考えていけるわけです。どういう土壌なら移行しやすいか、植物のどの部分にたまりやすいかなど、データがつみあがりつつあります。そういう状況をみたうえで、細かい産地別、植物の品目別などみて何に出て何に出ないという科学的根拠をみていくことができるようになります。

市民研では「大地を守る会」と提携して、また、これは農業関係者にとってはきわめて深刻な問題なので、いろいろな自治体が農業試験所などでデータをとってインターネットで公表していますので、それも含めて解析していきたい。そして、2012年はこのしらみつぶしの計測をやめて、重点的な計測をしようという提案をしたいと思っています。

また、これは消費者にどう伝えるかも伴います。「これは測定をやめます」といったら、「困るよ。出てきたらどうする?」と返ってくるのは当然予測されるわけです。しかし、科学的根拠やデータを示したら、納得してもらえると思います。これは本当にリスクコミュニケーションになるのではないでしょうか。

幸い、科学技術社会論学会による2011年度「柿内賢信記念賞研究助成金」の実践部門での助成を受けることができたので、「食品放射能汚染の計測の合理化・適正化に関する社会実験的研究」をする予定です(研究期間1年、助成額50万円)。ここ2~3か月で提案できるようにしたいと思っています(*捕捉情報6)。

科学者はデータをいじることは上手ですが、メタにデータを解析できる視点がありません。また、どう公表したらどういう意味を社会にもたらすのかという考察をすることもしていません。そこにふみこんできっちりすることが市民科学です。

今回のようなことが起こると、大地を守る会のような自主グループの会員さんたちは政府の基準を信用しませんので、大地を守る会独自基準が必要になります。つまり、独自のサイエンスの活用がいることになります。

しかし、大地を守る会はそこまで踏み込むことができません。測ることは測る、すごくお金をかけてたくさんデータをとっているのですが、どういうふうに見ていったらいいのか自分たちにはよくわからないわけです。

大学にいる研究者が大地を守る会のデータをみていくことができればいいのですが、そういう関係がそもそもありませんし、大地を守る会にしても、どこに依頼したらいいのかわからないという状況です。

そこで市民研の食のグループの5人で取り組んでいます。メンバーには専門性はありませんが、食のリスクについて議論してきたので、まずは既存の公表されたデータからどういう品目にどういうパターンで出るかを分析してもらっているところです。

数が多いから人海戦術的にグラフをつくっていくしかありません。どういうファクターが放射能に影響があるかをみていこうとしています。

試行錯誤でやりながら、この品目に関してはこういう育て方をしていくとこういう出方で出るぞ~ということは見えてきたように感じます。もちろん、わからない部分もけっこう残ると思います。

放射能の代謝はいろいろわかっていますが、いろいろなファクターがあって一般化できないことが問題です。チェルノブイリのデータで判断できないこともいっぱいあります。

そして、消費者にどう伝えるかは検討中の課題です。科学的に整理されたデータをそのまま見せてもしようがありません。どういうふうに納得してもらえるか。とくに農家の人は自分がつくっているから、「もう出ないですよ」と結果だけいわれても納得しないでしょう。

結果だけで判断をするのではなく、データをみて判断能力、データを見る力をつける事が大事かなと。

農家の方は出る・出ないにものすごく関心をもっているので、自分ですごく勉強をしています。ですので、化学を学んでいないのに、質問がマニアックで、そうかそんなことまで考えられるのかと感心させられます。そういう人はコミュニケーションの地盤ができていてこちらのいうことがぱっと通じるのではないかと思うのです。とくに生産者と消費者の関係が近いような場合、コミュニケーションをしやすいのではないかと思うので、そこをモデルにしてやってみようと思っています。

専門性を持ってやっている部署は、市民と対話する回路をもっていません。自分たちの研究がどう応用されるかというルートは決まっているので、そのルートにのって情報のやりとりをしているところがほとんどです。いったんリスクなり事故なり社会的に大きな事象が起こった場合、どう対処するのかというと、いわば外部にお任せ状態だったわけです。担当セクションがあるでしょうということで。しかし、今回の放射能に関しては担当セクションも知らない、わからないような問題です。

それぞれ関係している部署がどうつながって動かないといけないかという設計が実はできていなかったということが、露骨に見えてきたわけです。

多少なりとも生産者と消費者の顔が近いところで、自分の関心に応じて自主測定して情報発信するところがたくさん出てきた。そこに私たちがのりこんでいって、どういうやり方をしているか、どういう仕事をしたときにうまくいったのかを調べて、それをさきほどの大きな社会全体で回路がずたずたになっているところに持ちかけていきましょうと。そういう方法というか視点が大事と思っています。

それは地域のなかで、リスクの問題に限らず、生産と消費、開発と応用というように、距離が比較的近いような動き方をしているところは、リスクの問題を生じたときの動き方のモデルとして考えることができるのではないか、そこで起こったことの事象をうまくひろげていく方法を考えていけばいいと思っています。

問題なのは、消費者が個人防衛的にリスクに対処していることです。それは、国の言っていることを信じられない、また自分には科学的なデータを読む力もない。それであればまず身をまもれ、子どもを守れとリスクゼロに限りなく近いところに走りこんで行くわけです。問題なのは、そういう行動が社会にとってどういう影響が出るのか視野にないことです。

そういうふうになる前に、本当は話し合いがいるわけです。そういうことをしようと思ってもできない人もいるし、避難だって個人でできない人もいるわけです。個人に勝手にやってくれ、では話が終わらないのです。

●2012年6月に市民科学国際会議を開催

今年の6月23-24日、放射線防護に関する市民科学者国際会議を開催しようと計画しています(*補足情報7)。

低線量のことをどう考えるか、日本のデータを海外の研究者が見たらどう見るか、福島でどういうケアが必要か、海外の研究者を含めて公平中立にオープンに討論できる場をつくろうということを提案したいと思っています。

補足情報(4)
住環境研究会の大槌町復興に関する活動については、以下を参照してください。
http://archives.shiminkagaku.org/archives/2011/07/post-272.html
http://archives.shiminkagaku.org/archives/2011/07/post-267.html

補足情報(5)
市民科学研究室は、福島県県民健康調査については、福島県知事宛に「県民健康管理調査に関する要望書」を2011年7月12日付で提出しました。
詳細は以下を参照してください。
http://archives.shiminkagaku.org/archives/2011/09/post-274.html
http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/2011/09/post-57.html
http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/2011/09/post-65.html

補足情報(6)
詳細は以下を参照してください。
http://archives.shiminkagaku.org/archives/2011/12/post-283.html

補足情報(7)
放射線防護に関する市民科学者国際会議の呼びかけ文(日本語・英語)は、以下を参照してください。
http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/2012/03/20126.html

(その3につづく)
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by focusonrisk | 2012-04-04 11:31 | 聞き取り調査