特定非営利活動法人 市民科学研究室 代表理事 上田昌文さん(その1)

(特活)国際理解教育センター
日立環境財団プロジェクトチーム
聞き取り調査

実施日時:2012年2月25日(月)10:00~12:30
対象:特定非営利活動法人 市民科学研究室 代表理事 上田昌文氏
聞き取り調査者:角田季美枝、角田尚子、福田紀子

1. 日本社会の状況に対して、貴団体・組織がめざす貢献は何ですか? また、これまでの貴団体・組織の実践から、学んだこと、今後に活かしたいことは何ですか?

●市民科学研究室の活動について

市民科学研究室(以下、市民研と略)は、もともと「科学と社会」について考える個人的な勉強会(「科学と社会を考える土曜講座」)として、1992年から始めて組織化していき、2005年に特定非営利活動法人となりました。20年間活動していても現在、会員は262人という小さな団体です。ただ長年支えてくださる方がいるので、私がひとり専属でかかわり、有給の事務局スタッフが1人いて週2~3日来ています。理事は基本的にボランティアで10人います。

科学技術は一般の市民の視点や生活で問題化されていません。科学技術の先端にも切り込める市民を育てたいという思いで活動を展開しています。活動は調査研究、子ども料理科学教室、学習会の講師などさまざまです。

現在の調査研究グループは7つ。ナノテクと社会、環境電磁界、生命操作・未来身体、低線量被曝、住環境、食の総合科学、科学コミュニケーションツールでおこなっています。きょうの午後おこなう生活習慣病予防ゲーム「ネゴシエート・キラー」は科学コミュニケーションツールの研究グループで研究開発したものです。

研究グループの研究は、専門家を集めて進めるのではなく、一般市民に対してこのような研究を行いたいとメンバーを公募します。メンバーが話し合ったうえでテーマを決めて、それぞれ月1~2回のペースで会合をもち、1年、2年かけて自分たちで調査して見つけた成果を公表する、提言としてまとめるという方法でおこなっています。大学のように恒常的に研究費がとれるわけでも、実験装置があってオリジナルのデータをとることができることもありませんが、状況に応じて自分たちで工夫して進めるというような方法であっても、科学技術の先端にあるものでも切り込むことができます。

というのは、社会との接点で技術が引き起こす問題に対しては、研究が手薄だったり、大学の研究でも抜けていたり、市民の視点に立って問題化されていないからです。(*補足情報1)

●「リビングサイエンス」という考え方

市民科学という私たちの立場がどういうものか説明しましょう。

台所という場所を考えると、台所は、ごみの問題、水の問題、GM(遺伝子組み換え農作物)の問題など全部がつながって見える場所ではあります。ところが、社会的には食うものをつくるところという位置づけになっています。実際は台所と社会のつながりをたどっていくと、科学面を含めていろいろな要素が入ってくるにもかかわらず、社会的機能としては単純化された場所になっているのです。

つながりをちゃんと見せていくと、たとえば、水のことが気になるなら、台所から変えていくことができるということがわかります。社会といろいろな技術のつながりを、「そこ」を起点にして見ることによって、社会をより良く変えていくルートを見出していくことができるのです。

そういう発想でとらえようというのが市民科学研究室でつかっている概念のひとつで、リビングサイエンスといっています。身近な生活を基点にして、物事を見ていくということですね。(*補足情報2)

●消費者の代表と研究者が前もって議論する

ナノテクノロジーの研究のなかでナノフードを取り上げました。開発している企業はいろいろ知っているが、消費者は知らないのです。下手に伝えると「ナノフードはすべて危ない」となってしまいます。そこで、テクノロジーアセスメントで専門家、企業の開発部門と議論をする機会をつくり、2年間、議論しました。

そういうことからわかってきたのは、消費者といっても一般市民に向けてある情報をボーンと発信したらいいという問題ではなく、研究開発途上のものについては、消費者の代表に集まってもらってじっくり勉強してもらって、それで専門家とやりとりすることをしないとまずいということです。

そこでNACS(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会)の人たちに動いてもらって7~8人の研究会をつくり、企業の開発部門がプレゼンし、NACSの人が見てわからないことを質問することを繰り返すというやり方で議論し、ナノテク食品を開発するのであれば、社会的に気をつけないといけないという点を提言しました(*補足情報3)。

これを消費者教育というべきかどうかわかりませんが、消費者にとってまだ十分よく知らないこと、けれどもリスクがあるかもしれないことについて、前もってどうやって受け止めて、いい形で社会で議論するようにもっていくか、検討がが必要だということです。

消費者が「賢い消費者」になることは、科学技術のことにも絶対かかわってくることなのです。

これに似た経験ですが、市民研というより個人の仕事でアサヒビールと年に1回「消費者ダイアローグ・ワークショップ」の企画検討・ファシリテータをしています。

消費者からのクレームには、会社全体の研究開発、販売、宣伝と大きくかかわってくるものが相当あります。そういうものを社員の人たちにどう受け止めてもらったらいいか、アサヒとして消費者に向けた企業活動をするにはどうするかを検討したいと相談されて、お客様相談室のスタッフと消費者教育などの専門家の先生を呼んで、毎年1回ワーククショップをしています。

企業の中にも消費者の声を受け止めてうまく生かしていくしくみをつくることが必要ということがわかります。

●定量的に日常を把握する

市民科学的視点で強調したいのは、ものを定量的にとらえることがどれぐらい日常でできるだろうかということです。

たとえば、以下のような質問に、どれぐらいの市民が答えられるでしょうか。

・携帯電話の電磁波の強さはどれぐらい?
・どの暖房器具をどう使うのがあなたの部屋では一番効率がいい?
・オール電化住宅は“お得”なの?
・自宅の家電機器などの待機電力はどれぐらい?
・月何リットルの水をどう使っているの?
・あなたの消費物資の海外依存度は?
・あなたは検査でどれぐらいのX線を浴びてきたか?
・あなたの体内のPCB濃度は? 放射線の内部被曝量は? 母乳中には? 胎児にどれぐらい移行するの?

携帯電話の電磁波についてですが、おそらく測っている人は非常に少ない。他の機器の電波の強さと比較する人も少ないでしょう。

しかし、実際に私がよくたとえていっていますが、「携帯電話の電磁波は、電子レンジに耳を当てた多時に浴びるものよりも強いことがある」のです。電子レンジは高周波をつかっていてマイクロ波です。電子レンジをオンしているときに箱から漏れてきています。実際に使っているときに体を近づける人はいないでしょうが、携帯電話の電磁波は電子レンジを真横にもってきたときより強いことがあります。

いい・悪いはべつにして、いろいろな事象のなかで「どれぐらい」という量的なもので見ていくと、実は知らないことだらけ。そういうことを入り口にいろいろ探っていく。

携帯電話は出力自体はそれほど大きくはないのですが、電波以外にも電気をつかっていることで生じる低周波磁場も結構大きいのです。

無線LAN、携帯、WiMaxなど、電波はまわりの環境で知らず知らずに増えてきています。ほとんどの家電製品にはインバータが入っているので、少し高い周波数のものが出ています。すべての周波数をトータルに曝露状況を調べたら、ここ10年間ですごく増えているのです・・・・・・と、いま、おおまかにいっていますが、実はそういうことを調べた調査はありません。だから驚くのです。

それぞれの電波の専門家、電気から出てくる磁場の研究家はいるのですが、何を研究しているかというと、めちゃめちゃ高い磁場の中で細胞がどうなるかという研究であって、家庭環境中でどうなっているのかは調べないのです。だから、ものすごいギャップがあります。

これだけリスクのことがいわれています。「リスクはないですよ」と、安心させたいなら測らないといけません。しかし、それがなくてものをいっている人がいっぱいいるのが現状なのです。

そういう意味では、市民研は電磁界については1999年から取り組んでいるので、いろいろな測定をしています。24時間計測できる機械を20人に携えてもらって測ったこともあります。国立環境研究所が大規模な疫学調査をしたとき、1台40万円のメーターが100台あります。そのようなものは市民が買えるわけがありませんので、貸してくれないかと頼んでみました。まだ当時ご存命だった兜先生がいいでしょうと個人的に貸してくれたので、オール電化住宅に住んでいる人とそうでない人の曝露状況を比較できたのです。

オール電化に住んでいる人が高いだけではなくなぜ高いのかもいろいろわかりました。オール電化に住んでいる人で高い人はIHだけが問題でなく、床暖房が問題であることや、意外なものが高かったこともわかりました。たとえば、台所ではかった時、電子レンジを使っていないのに高かった。台所の向こうにエコキュートがあったのです。

ただ、国が採用している基準からいえば、そんなに曝露していないということになります。

電磁波の曝露では何が起こるかわからない部分がいっぱいあります。高圧線の下に住んでいる子どもの白血病や携帯電話の脳腫瘍など、気になるデータもあります。けれど基準値を変えるには及ばないと、国際機関がつっぱねているのが現状です。


補足情報 (1)
「市民科学」を市民研は以下のように定義している。
http://www.csij.org/what-cs.html
「市民科学」とは「市民の、市民による、市民のための科学」。複雑で高度な専門知に立ち入らねばならない場合であっても、市民がそれを回避せず、しかも専門の細分化に足をすくわれることなく、生活の総合性をみすえて問題解決にあたることが鍵になります。

また、設立趣意書では「市民科学」を提案する問題意識や定義が以下のように記述されている。(編注:読みやすいように改行を加えている)
http://www.csij.org/img/shuisyo.pdf

*市民科学とは、
(1)市民が不安や危惧を抱く問題をみすえて、その問題解決のために調査研究をすすめる、
(2)科学技術のあり方に関して市民の問題意識や関心を高める、
(3)市民と専門家の間の対話を促進し、専門性の障壁をうまく乗り越えていく、
(4)科学技術政策に市民の意思が適切に反映されるようにする、といった総合的な取り組みである。
すなわち市民科学は、科学技術の活動が展開される様々な局面で、市民が主体的・実践的に関与していく機会を作り出していくことであり、総体として科学技術の発展を適正に制御し、持続可能で公正な社会の実現を目指すものである。

科学技術がもっぱら専門家によって研究開発され一般市民はその成果を享受するだけという、これまでのあり方をどこかで変えなければならないだろう。そのときに肝要なのは、一般市民が「科学技術のことは専門家にお任せする」というこれまでの姿勢を改め、専門家や政策立案にたずさわる人々に自分の意思をきちんと示し、ともに問題解決をはかるよう働きかけることであろう。素人にとって歯が立たないように思える専門知識に対しても、様々な助力のもとに市民が上手に向き合っていく方法があるものと思われる。

補足情報 (2)
リビングサイエンスについて、市民科学研究室のウエブサイトでは以下のように定義している。
http://www.csij.org/what-cs.html
「リビングサイエンス」とは「生活を基点にした科学」。さまざまな形で生活に入り込んでいる技術や科学知を、市民が主体となってよりよい暮らしに向けて選択し、編集し、活用し、研究開発を適正に方向付けていくという多面的な活動です。

補足情報(3) ナノテク食品のテクノロジーアセスメントの研究報告書は以下からダウンロード可能になっている。
『TA Report フードナノテク 食品分野へのナノテクノロジーの応用の現状と諸課題』
http://i2ta.org/files/TA_Report01.pdf


(その2につづく)
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by focusonrisk | 2012-04-04 11:27 | 聞き取り調査