慶応義塾大学 吉川肇子教授(チームクロスロード)

(特活)国際理解教育センター
日立環境財団プロジェクトチーム
聞き取り調査

実施日時:2011年10月24日(月)10:30~12:00
対象:慶應義塾大学 吉川肇子教授(チームクロスロード)
聞き取り調査者:角田季美枝、角田尚子、淺川和也

1 現在の日本社会におけるリスクコミュニケーションについて、何が課題と思われますか? 特に、3.11以降、活動への影響はどのようなものがございますか?

リスクコミュニケーションで「誰かに教わって学べば判断できる」というモデルは古いということです。実際に行われていることは知識の伝授、誤りの訂正です。「私の言うことをききなさい」、「私と同じになりなさい」、というのは考え直した方が良いと思います。

リスクコミュニケーションは、1980年代、ある種の社会運動として実践されてきましたが、ある言葉を必要としている社会的背景を知った方が良いと思います。リスクリテラシーを上げるだけはなく、参加、民主主義ということがリスクコミュニケーションという概念の誕生の背景にあります。(*1)


2. 日本社会の状況に対して、貴団体・組織がめざす貢献は何ですか? また、これまでの貴団体・組織の実践から、学んだこと、今後に活かしたいことは何ですか?

わたしは社会心理学の専攻で、シムソック(SIMSOC)を実施しました。これはアメリカの社会学者ギャムソンが開発したシミュレーションゲームです。1つの地域について4チームにわかれて、社会秩序の形成、対立、葛藤などを体験させて、2日がかりで行う大がかりな模擬社会ゲームです。10~20年経った今でも体験した学生から年賀状に「シムソックの合宿のことをいまでもしばしば思い出します」という便りが届きます。「ゲームの中で学んだことをいつまでもふりかえって考えている」ということだと思っています。

自由度があるロールプレイは、向いている人と向いていない人があると思います。防災ゲームのクロスロード(*2)を開発するときは、最初から「型にはめよう」と、状況カードに対してyes/noを表明するというデザインにしました。状況カードではジレンマを扱います。

クロスロードのyes/noは、現在、多数派予測、自分の意見とどちらもできるようにしてあります。最初は多数派予測だけだったのですが、実施していた最初の頃参加者から、「なぜ人の意見を想像しなくてはならないのか?」という問いが出されたので、わかりやすいよう、二通りのルールを用意しました。

クロスロードを実施している時、自分で考えもしないような意見を聞くことができる。それを体験するのが重要なのです。ゲームをやって効果があったと短期的な評価ではなく、ゲームをした帰り道、いろいろ考えたとなることをゲームの開発者としてはねらっています。できるだけ反芻させたいわけです。

また、一度だけではなく何度でもやってもらうようにすることが大事だと考えます。二度目はこうすれば一度目よりうまく行くと考えるはずですが、その学びが大事だと思っています。ですので、2回目をやりたくないような面白くないゲームは、教育に向かないと思います。

ゲームではふり返りやファシリテーションが大事です。クロスロードでは、ファシリテーターの技量をそれほど要求しない、わかりやすいルールにしました。 クロスロードを発想したきっかけの1つは、「道徳性の発達段階テスト」です。たとえば、「ハインツのジレンマ」という話があります。「がんで死に瀕している妻の病気を治すにはある薬を使った時だけです。その薬は非常に高価な薬であるため、夫はその値段の全てを用意できず相談したが断られてしまいました。そこで夫は薬屋に泥棒をして薬を手にいれました。夫はどうすべきだったか? 夫の行動は正しかったか?」という話です。クロスロードですと、「避難所に3000人いるのに2000食分しかない。どうする?」というような状況です。意見表明の理由を分析すれば、防災対応能力のテストにもつながるのでは、と当初考えました。ただ、その後やってみて、ゲームの中で話されていることこそが重要だと考えましたので、データを取るとか、テストを作るとか、このような初期の考え方は改めました。

環境問題のクロスロードはつくりづらいです。道徳の教材のようになってしまっておもしろくないのです。問題の作り方にもよるのですが、人間的な悩みが表現されていないからですたとえば、「レジ袋をスーパーでもらうかもらわないか」は見かけ上はyes/noだが、実際はどちらが正しいと思うか、その価値観というか、社会的な正解(現在は、多くの人がこちらの方が良いと思っている)聞いています。クロスロードにするなら「エコバックをもってスーパーに入ると万引きするように見えるかもしれないと考えてくよくよする」というような状況を問うた方が良いです。人間的な悩みを共有するのがクロスロードの本質だと思っています。

大ナマジンはすごろくゲームです(*3)。やっていただければわかりますが、2回に1回は地震につかまるよう設計しています。そのことで家庭の防災対応を考えてもらうということになっています。

ゲームではあまりにリアルなシミュレーションにしません。教科書で教えればすむことを、回りくどく教える意味はないと思います。

3. 今回わたしたちが開発しようとしている教材および人材育成プログラムについて、ご提案などございますか?

多様な価値観があるということ、価値観の折り合いをつけることを考えてもらえるような対話型の実践の推進、のようなものは、個人的には好みですが、もちろん設計者によって考え方が違うと思います。

テレビで最近放映されているライブ授業は、対話型のように見えますが、見かけ上そうなっているだけで、生徒(学生)同士が本当に対話しているのか疑問に感じると頃があります。対話しているのは先生と生徒で、それでは、従来の講義型とあまり変わらないのではないかと思います。本当に大事なのは、生徒同士で学びあったり、また生徒本人が自ら学ぶことだと思います。

【補足情報】
*1 詳細は、吉川肇子『リスク・コミュニケーション 相互理解とよりよい意思決定をめざして』(福村出版、1999年)を参照されたい。
*2 クロスロードについての概要は以下を参照。
http://www.bousai.go.jp/km/gst/kth19005.html
http://www.s-coop.net/rune/bousai/crossroad.html
また、クロスロードの開発の経緯や公表後の発展については以下を参照されたい。
矢守克也・吉川肇子・網代剛『防災ゲームで学ぶリスク・コミュニケーション クロスロードへの招待』ナカニシヤ出版、2005年
吉川肇子・矢守克也・杉浦淳吉『クロスロード・ネクスト 続:ゲームで学ぶリスク・コミュニケーション』ナカニシヤ出版、2009年
*3 大ナマジンについては以下を参照されたい。
http://www.s-coop.net/rune/bousai/sugoroku.html

(注)本稿は聞き取りをもとに角田季美枝が作成した草案を、吉川教授に確認・加筆修正いただいたものである。


【追加情報】

高岡 滋 @st7q
岩波書店「科学」1月号特集「リスクの語られ方」で、慶大・吉川肇子氏が紹介している「リスク・コミュニケーションの4つの義務」(Stallen & Coppock)に注目。①実務的義務、②道徳的義務、③心理的義務、④制度的義務。情報の送り手にこの義務を果たす意思があるかどうかが問題。
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by focusonrisk | 2012-02-01 23:23 | 聞き取り調査