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『リスクに焦点』日本語版ができました

米国の環境教育プログラムPLTには、年齢別、テーマ別などのモジュールブックがあります。中等教育向けのセカンダリー・モジュールの一冊でありますFOCUS ON RISKの翻訳を、日立環境財団の環境 NPO 助成から支援を受けて進めておりましたが、ようやく完成しました。

2012年6月23-24日開催の主催研修「ファシリテーター養成講座-PLT 木と学ぼう-リスクに焦点」のテキストとして使用するため、50部印刷いたしましたが、余部を一般提供いたします。

入手を希望される方は、ホームページの申込書をご活用のうえ、お申込みください。

申込書へのアクセスはこちらから。
http://eric-net.org/text-order.html

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●『リスクに焦点』
*テーマ 環境
*著者・編者 アメリカ森林協議会編、ERIC国際理解教育センター編訳
*A4判 220ページ
*出版年月 2012年4月
*注文番号 FOR-25
*提供価格 2,500円

*内容:

Acknowledgments 謝辞
About PLT PLT について
Introduction はじめに
Background Information for Educators 教育者のための背景情報
Student Activities 生徒用アクティビティ
 Activity 1 What Is Risk? リスクって何?
 Activity 2 Things Aren't Always What They Seem ものは見かけによらぬもの
 Activity 3 Chances Are…Understanding Probability and Risk
       偶然にも・・・確率とリスクを理解する
 Activity 4 Risk Assessment: Tools of the Trade
       リスク・アセスメント: 専門的なツール
 Activity 5 Communicating Risk リスク・コミュニケーション
 Activity 6 Weighing the Options: A Look at Tradeoffs
       選択肢を天秤にかける:トレードオフを考えよう
 Activity 7 Decision Making: Ecological Risk, Wildfires, and Natural Hazards
       意思決定:生態系のリスク、山火事、天災
 Special Topics 特別課題
  Electromagnetic Fields 電磁場
  Chlorine: Looking at Tradeoffs 塩素:トレードオフを調べる
  Plastics, Risk/Benefit Analysis, and Environmental Legislation
  プラスチック、リスク/便益分析、環境法令
 Activity 8 Taking Action: Reducing Risk in Your School or Community
       行動を起こす:あなたの学校やコミュニティのリスクを減らす
Appendices
Appendix 1. References Cited(引用文献)
Appendix 2. Additional Resources(追加資料)
Appendix 3. 用語集
Appendix 4. Suggestions for Using the Internet as a Resources
(インターネットの活用)
Appendix 5. ディベートのすすめ
Appendix 6. Biographies of Risk Professionals(リスク専門家の略歴)
Appendix 7. Supplemental Readings(読み物)
Appendix 8. モンテカルロ法
Appendix 9. Metric Conversion Chart(メートル法換算表)
Appendix 10. アクティビティ対応表
Appendix 11. 関連アクティビティ
Appendix 12. PLT の概念枠組み
※Acknowledgments、Appendix 1、Appendix 2、Appendix 6、Appendix 7 は、翻訳しておりませんので、本冊子を提供された方でご入用の方には事務局から別途提供いたします。

# by focusonrisk | 2012-06-05 13:23 | 翻訳

ファシリテーター養成講座-PLT 木と学ぼう-リスクに焦点 実施要領

ファシリテーター養成講座-PLT 木と学ぼう-リスクに焦点
実施要領


特定非営利活動法人 国際理解教育センター(ERIC)は、以下の講座を開催します。

                記

1. 主 催  : 特定非営利活動法人 国際理解教育センター(ERIC)

2. 講座名  : ファシリテーター養成講座- PLT 木と学ぼう-リスクに焦点

3. 日 時  : 2012年(平成24年)6月23日(土)?24日(日)
受付:  6月23日(土)10時30分?10時50分
6月23日(土)セッション1 11.00-13.00
セッション2 14.00-15.50
セッション3 16.00-18.00
6月24日(日)セッション4 9.00-11.00
セッション5 12.00-13.50
セッション6 14.00-16.00

4. 会 場  : 国際理解教育センター(東京都北区滝野川1-93-5コスモ西巣鴨105)

5. 主旨・内容: PLT Project Learning Tree 『木と学ぼう』は米国の環境教育プログラムです。2011年度に新たに出版された『リスクに焦点』の内容を加えたファシリテーター養成を行います。[PLTファシリテーター資格取得12時間コースです。]

6. 参加対象 : 学ぶ意欲のある方(一般公募,特に資格などは問いません。)

7. 参加費  : 27,500円(参加費、テキスト代)
        前日までに以下の口座に振り込んでください。
みずほ銀行 大塚支店 普通預金口座2011254 
特定非営利活動法人 国際理解教育センター
郵便振替口座: 00185-5-710744 加入者名: ERIC事務局
ゆうちょ銀行口座(郵便局からの振込): 10020-3288381 
名義:トクヒ国際理解教育センター
ゆうちょ銀行口座(他の銀行からの振込):ゼロゼロハチ(008)-0328838
名義:トクヒ国際理解教育センター

8. 問い合わせ・申し込み
  特定非営利活動法人 国際理解教育センター(ERIC)
  〒 114-0023  東京都北区滝野川1-93-5コスモ西巣鴨105
  tel: 03-5907-6054(研修系)
  fax: 03-5907-6095
  e-mail: eric@eric-net.org
  ホームページからも確認できます。http://eric-net.org/

【ファシリテーター養成講座-PLT 木と学ぼう-リスクに焦点 研修プログラム】

セッション1 共通基盤づくり
11:00-13:00
1. 二日間の内容について
2. 自己紹介「3.11から一年」[ペアで紹介→他己紹介で全体共有]
3. 二日間の心がけ[一人で→ペアで→全体で]
4. PLTのアクティビティを体験する「#86 わたしたちの変化する世界」
5. ふりかえり

セッション2 流れのあるプログラム
14:00-16:00
1. ものはみかけによらぬもの-専門家と素人 (FoR #2)
2. 万が一ワークシート-確率を理解する (FoR #3)
3. 原発事故のリスクを4つの視点から考える
4. もうちょっと考え続ける FoRガイドラインの検討

セッション3 PLTの学習方法の特徴とすすめ方
16:00-18:00
1. アクティビティ実践評価表でふりかえり「何を、どのように?」技術的省察
2. アクティビティの目標の確認「なぜ?」実践的省察
3. PLTの目標「それで、どうしたいの?」見通し的省察
4. PLTガイドの使い方

セッション4 アダプト・アクティビティ(PLT PreK-8を含む)
9:00-12:00

セッション5  PLTを使って、リスク・コミュニケーションをすすめる
13.00-15.00

セッション6 行動計画づくり
15.00-16.00
1. 二日間のふりかえり
2. 個人的行動計画
3. バリヤーの克服
4. 修了証および認定証

以上

# by focusonrisk | 2012-05-24 18:54 | 研修案内

研究会記録(その2)

日 時:2012年2月25日(土)13:00-16-00
場 所:ERIC事務所
参加者:上田昌文、梅村松秀、角田尚子、上村光弘、高柳葉子、角田季美枝、福田紀子、三宅叶夢
内 容:             
(1)本日の検討課題
(2)ゲーム「ネゴシエート・キラー」の評価
(3)リスクに対するさまざまな立場について(以上、記録その1)
(4)リスクコミュニケーションの評価の視点
(5)評価の共通のキーワード、自由討議

****************

(4)リスクコミュニケーションの評価の視点                                              

・活動:評価の視点を挙げる(ひとりずつ→共有)

 ■コミュニケーションをしていく中で自ら判断出来るようになる事が大切。

 リスクは様々。自分は何を重視するのか?
 どのリスクを受け入れるのか、受け入れないのか?
 コミュニケーションをしていく中で、コスト•ベネフィットなどを考えて、自分で判断出来るようになることが大事。
 例えば「修学旅行に日光に行くか?否か?」と問われた時に、私はある答えをもっているが、なぜそうするのかが大切。決まった結論がある訳ではない。そのための知識やデータも必要でしょう。そして、自分にとっての選択は、誰かにとっては違うものかもしれない。そのようなことを示しながら,相手とやり取り出来る事がリスクコミュニケーションだと思う。
 科学者が言ったからこうだ、ではなくて状況によって受け止め方が違っていい問題がある。人々は一つの答えを知りたがっていても、それでは対処出来ないことが多い。
 はじめから科学者に決めてもらう問題ではないというのがリスクだと思います。

■アクションに繋げられたか。

 他者—自分を客観的に考えたか?
 その場で判断出来る事ではないかもしれないが、評価の視点になる

■リスクのコストとベネフィットそのものを疑うこと。考えているかが評価につながる。

 セルフマネジメントするための条件が各人によって違う。
 自分の条件を知った上での選択力が必要。コスト•ベネフィットの相関を疑う必要がある。

■社会が育つ—選択の多様性=リスク分散

 条件カードがそれぞれ違う方がおもしろい。
 自分の条件を受け入れる。多様な条件がある事を受け入れる。
 例えば地域の中にも多様なエネルギー源をもっていた方がよい。
 他者のそれぞれの選択を認める。

■他の人のリスクを受け止められる。
 
リスクの多様性と、判断の多様性を認める、受容出来る。

■自分なりの宿題ができればいい。

 トレードオフ、評価の視点を自分のものとしてもちかえられることができれば、成功。
 一般的な結論を与えられるようなもの、○×ではかられる、テストされるのは違う
 しかし、基本的な理解は必要。確率、トレードオフ、コスト•ベネフィット、マネジメント他、共通して理解すべき事もある。
 平均値=中央値ではない。

■多様なリスクの認識を得たか

■意見や立場の違う人と出会えたか

■自分が大切にしたい価値や倫理を深める事が出来たか

■意見や立場の違う人と共通に得る利益や価値を得る事が出来たか

■他者の意見を聞きながら自分を客観的に見る事が出来たか — 個からの出発


(5)共通キーワードと自由討議                                                   

評価の基準は再度検討していきたいが、今日のディスカッションで出た共通のキーワードは以下のとおり。

●共通のキーワード
 ○コストとベネフィットがある
 ○リスクは確率である
 ○マネジメントする事が出来る
 ○それは選択である
 ○選択は価値観である
 ○「違い」がある
 ○「違い」があるからこそ、「自分」から出発する事が大事

●リスク教育推進の課題

以上を踏まえて、さらにリスク教育を進める上での課題について、時間の許す限り、ブレーンストーミングを行った。発言順に紹介する。

■(リスクコミュニケーションについて)
確かに価値観や選択に違いがあるのだが、それが“人はそれぞれ”で終わる相対主義に陥らないようにしたい。コミュニケーションであるかぎり、価値観の違う、リスクの捉え方が全く違うような人たちとやりとりできるところまでもっていけたのか、を問いたい。

例えば、低線量が危ないという人もいれば、100ミリシーベルトまで全く大丈夫だという人もいる。両者のやり取りがあまりない。本当はリスクを社会で納得する為には両者が完全合意する訳でなくても、そのやり取りを創っていく事が大事。それをどうやって創っていけるかという事が大きな問題。

■それを考えるには「なぜやりとりできないか」ということを考えなくては行けないのだと思う。それは私たちがやってきたことにもつながる。
「参加の文化をはばむもの」として、3高の人々、肩書きが高い、年齢が高い、学歴が高い人々の存在がある。このような人々は“対等に”話し合えない。パワーを持っている人々と対等に話し合う文化がないので、パワーを持っている側が決めている。だからこそ、やりとりできない。様々な課題解決の参加の場でそのことにぶつかる。

■それはある。そこをどういう風に突き崩していけるか、変えていけるかというのが、一番大事。例えば政府も一般民衆の声が大きくなれば変えざるを得ないというのがある。それが基本的に民主主義というものだ。民主的な原則に乗って、どこまでパワーを持っている側に変えていく事を迫れるかが問われている。

リスクコミュニケーションというと言葉としてきれいに聞こえるかもしれないが、結局はそのパワーを突き崩していく、どこまで入っていけるかという事にどうしても関わってくる。

原発はその典型。被害が放射能汚染で一挙に広がったので問題視されているが、実際は原発の事故が起るか起らないかを決めるのは本当に動かしている、パワーを持っている側だけなんです。一般の人がどうこう言おうが、本当に事故を起こさないようにするという事に関与出来るかというと無理なんです。しかし、エネルギー政策として原発はいらないという声が大きくなれば、それはやらざるを得ない。そういう意味でつながりはあるのだが、ごく限られた人のみで動かすシステムがあったということが、問題だった。パワーの問題はどうしても関わってくる。

今はそのパワーが変わる時期なのだが、放射線被害に関しても、エネルギーの選択に関してもパワーを持っている側は従来のやり方を変えようとはしていないので、ぎくしゃくすることがいっぱい起っている。

一般市民の側もそこを見抜いた上で発言していかなくてはならないが、例えばリスクの事を「ウチの子どもを守る」というだけで走ってしまうと、そのことまでいかない。「原発はあぶない」と言っているだけでは電気料金の事は解決しない。

■(市民の立場も)つながりがもっと持てたら、(パワーの側の)つながりを見抜いた上でどのように持っていけるかを考えなければ。

■問題がこれだけ複雑で重層的に見える、“お手上げ”感がある。だからこそ簡便な政策を求める。わかりやすさを求める先には、ポピュリズムにつながる可能性も高まっている。たとえば「がんばろう!日本」というフレーズはその内容を問う事無しに拒めない等。

■東京都の副知事が「東電の値上げに承服出来ない」と言う。副知事だけではなく、私たちも言っていい事なのに言えない。言うすべを知らない。本当はすごくわかりやすい毎日の事なのに、言っていいし言えるはずの事なのに、そこが見えない。

■言えないだけではなく、言ったとたんに自分の家の電気切られたらどうしよう、と思う。

■本当は違うはずなのだが、東電から切られたら、別のところから買いますよ、自家発電しますよ、という人が100人いたら変わる。違ったアプローチ、有効な「わかりやすさ」もあるはずなのだが、まだ、私たちのものになっていない。

■政策的に方向性の違うどちらの側もその「わかりやすさ」を掲げようとしているのでしょう。

■STS(Science, Technology and Society)は今どのようになっているのですか?

■今言ったような問題意識で議論をして欲しいのだが、学会としては取り組めていない。

■学会はがっかり。声明を出すくらい。

■声明を出すところはまだ、やっているほう。政策を変える、自分たちの課題をもつところまではいっていない。

■このあたりも分析したい。ただ、日本学術会議のシンポジウムに出ても、あまり評価出来なかった。結論ありき。要するに100ミリシーベルト。座長がだれもそれまでに発言していないのに、それぞれのシンポジストの発言は複雑で多様であるにもかかわらず、学術会議の副会長がつとめる座長だけが「100ミリシーベルトは安全だって事ですね」とまとめる。

その場で異議を唱えるチャンスも与えられない。質問や発言が出来る所ではなかった。科学者の集まりで結論ありきではどうかと思う。

■学会の対応等もまとめることもありかもしれませんね。

■震災/原発のことについての学会の対応について、途中までフォローしていたけれど、もういいか、となった。

■巨大サイエンスの持っているリスクというのもある。意思決定が遠い。9月までの間に変わる可能性もあったと海外のジャーナリストが言っているが、何が代わる事を妨げたのか。

■野田政権誕生、というのはシンボリックに見えますね。

■鈴木達治郎という政府と原発を推進してきた方が、もう、新規立地は出来ないし、実質的に40年をめどに脱原発は決まっている、8月31日に決まっていると言っていた。前原さんも別の会で同じ事を発言していた。私たちにはそのことは伝わっていない。

■新規立地はなくても、現存の原発をどうするか、は言っていない。産業を守るため、電力需要を賄う為に必要だとする意見もある。また、日本では新規は無くても海外には輸出するという問題もある。

■運動の側も、9月に新しい目標を設定出来ていない。新規立地は無いので40年以内に集結するのであれば、次はどこへ向かうのかという示し方ができていない。自分の3.11熱はいつさめたかを共有するとこの時期になるのではないか。脱原発というのが分かりやすいので、それにすがったのではないか。1月に脱原発世界会議を行ったが、推進の側にとっては、すでにわかっている事。

■会議の中でネクストステップは可視化しなかったのか?

■アピール文は出ている。自然エネルギー、分散型エネルギーなどの提案はあるが、大きな運動として何をやるのかは出ていない。巨大科学の解体はSTSでも言われていない。大前提だから。コミュニケーションをする、コンセンサス会議のような手法を上田さんたちが実践してきたが、「プロセス」が必要。

■リスクコミュニケーションにとって、何が課題か。「声を上げ続ける事しか無い」というのが脱原発会議でも言われていた。ただ、イシューがそこにはなかった。日本の民主主義のデザインが求められている。

意思決定はわたしたちがやっているのだ、ということを可視化してほしい、わかるようにして欲しい。
高級官僚を選ぶとか。政治家は選ぶが、最高裁裁判官ですら低調。行政に関するチェックができていない。立法府しか選んでいないので。司法は国民の関心が低い。

■自治体の首長、議員は選挙があるが?

■原発の事で言えば、経済産業省の政策を内側から変えていく事は難しい。結局変えさせる事が出来るのは政治家だが、実は政治家がよく知らないので、経産省にふりまわされている、という構造がずっと続いている。

一方で原発をつくれば地元の利権がらみでお金が入ってくるといううま味をもらえるという構造があったので、自民党政権時代は変わる事は無かった。

民主党になって変わるかと言われると、素人ばかりで経産省の役人に対抗出来る人はいない。

経産省は原発の新規立地はできないことはわかっているが、今までの電力会社との関係を含めて利権を手放したくはないので、原発輸出や再稼働など、いろいろなことをやっているはず。核燃料リサイクルの維持さえ考えている。手放していない。その人たちをどのように変えていけるかが大きな問題のはずなのだが、そのことは挙がっていかない。

■地域の雇用とつながっているから、挙げにくいのでは。

■それはすごく大きい。一番動かしている本人たちをどう変える事が出来るのか,政治の側から考えていかなければならないのだが、その考え方がみえないというのが一番の問題。

■1980年代のアメリカの本「Cooperative learning, Cooperative Lives」協力しなければだめだという本の中で、「競争を学ぶ」学校教育の問題が挙げられている。これが「官僚」にあてはまる。
 「自分が負けるようなゲームはしたくない」
 「勝つとわかっているゲームには参加する」
 「勝たないと気が済まない」
High Achieverこそが、
 リスクを避ける。
 リスクを受け付けない
 新しいタイプのアクティビィティには参加しない。

と言っている。これが官僚の態度に重なる。
とすれば、学校教育を学んだ結果がこうなる。彼等は学校の競争で勝ってきた人たち。その人たちが負ける事を受け入れるはずがない。“病”だなと思った。

■外側から見た時に、そのような批判はされてきた。『官僚の責任』など古賀さんなども。外からは言われても、内側は変わらない。

■彼等はゲームデザイナーなので。ゲームをデザインする時に、FairnessとかPower Shared、あるいはDiversityなどからは一番遠いことを考える事はあり得ない。「力の分有」「対等性」「みんなの参加」。電話での質問だけでヒアリングしました、各団体に電話しました、となる。

学校を変えなければならない。学校で競争を学び取ってきた人たちを変えなければならない。中等教育、18歳までの教育を競争原理でないものにしなければ公教育である事の意味が無い。

しかし、そのためにどうすればいいのか?

■マイケル・サンデル氏の白熱教室の追加番組(*3)で、4—5名の日本人の出席者が共通して「自由競争」に肯定的であることに驚いた。「価値観」「公正さ」「正義」等ではなく「自由な競争があることがよいこと」を前提にされていた。

■だいたいプロスポーツ選手を呼んできて、個人的には良い人であっても、業界の原理が違う。

■「子どもの教育のもつ原理」と「自分たちの持つ原理」が違うことに気づいていない。

■まだ、ジャパネット高田さんのほうがオーディエンスに対する幅広い視野があった。みんなに売らなきゃならないから。「勝つ事が正義」のプロスポーツの特異性がわかっていない。良い競争があり得るんだ、となる。その成果が報酬になるという特異性がわかっていない。

■外国人の学生の中には、ある問題に対するために価値観について述べる人もいたが、日本を代表する人たちは「競争は良いこと」とつくられていた。
 
■もともと「白熱教室」というのは、哲学的に考えるとはなにかの、ものの見方考え方を教えるところだった。しかし、あの番組では「答えの無い問題を語り合わなければだめだ」というメッセージになっていた。「それはひとつの価値観で答えを出していける時代ではないから」というものであったと思う。それは新しい展開だったと思う。なぜ、話し合わなければならないのか。

■競争が一種のゲームとしてあるのは良いと思う。オタクの世界。いろんな情報を収集し、競争する。好きだから。しかし、世の中の競争にはかならず報酬や何かがあって、他人と比較し合って、給料に反映される等そこに全体が流れるというのがおかしい。
 
■価値がすべて市場価値に集約されるわけですね。

■そう、それがおかしい。就活のきびしさがいわれているが、これは将来に対して相当おかしなことになるのではないか。100人の市民活動があったときに、1人くらいちょっと違う事をやってもいいかなと思える人がいてもいいはず。20代は苦しくても30代になったらようやく見えてくるという人生設計があってもいいと思うのだけれど、そこには踏み込めない人が多い。

■それは80年代からいわれていた。メインストリーム、つまり人生の選択の幅が狭すぎる。

■自分で生活を支える力が無い人にリスクが高くなる。震災でも、引っ越し出来るひとは引っ越す。仕事を選べる人は選ぶ。

■液状化をかかえた浦安でも、若い人はもうどんどん出て行っている。今までアパート暮らしをしていて、浦安が好きだけど、アパートが傾いたので出て行く。補助も何も無いので何千万円かの修理は家主が直すしかない。個人の責任ではないのに。

浦安だけで3000人の人たちが出て行っている。家主のほうも、傾きの修理だけなら数百万だが、液状化に対して地盤を整備すると1千万かかるので、お手上げ状態。各戸でなくブロックごとに地盤整備するとやすくなるので、呼びかけるNPOがやっと出来た状態。

■震災の跡地も、土地の財産権が復興にネガティブに働いているということも聞いた。平地にするまでにも、公的な投入があった。自衛隊を派遣し、行政の予算を使い、ボランティアが手伝い、平地に戻したわけだが、個人の財産権のみしか見えていない。

■社会的な力が低下している。

■そこは政治の力で、大きな計画を立てて、多少無理があっても、将来に向かってこうやるべきというものがあれば、と思う。

■彼等も“中央”ではない。常に上を見て動いていた。上見て動いていたら何もしてくれなかった。岩手県知事が、こんなに政府の担当者が変わるのであれば、霞ヶ関に日参していた時間を地域をまわる事に使えば良かった、と。

■…この話しは終わらない。このような場をどういう風につくっていけば良いのか、ですね。

(補足情報)
*3「マイケル・サンデル 究極の選択 『大震災特別講義~私たちはどう生きるか』」2011年4月6日、NHKで放映。ゲストは石田衣良、高田明、高橋ジョージ、高畑淳子;この内容は5月、緊急出版された。https://www.nhk-book.co.jp/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00814832011
「白熱教室」については以下を参照してください。
http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/harvard/lecture/120218.html

(文責:福田紀子)

*本記録は、福田紀子が草案をまとめ、参加者に確認のうえ、加筆修正したものである。
また、ブログにアップするにあたり、角田季美枝が形式を整える、補足情報を入れるなど、若干編集を行った。

# by focusonrisk | 2012-04-25 23:51 | 勉強会・記録

研究会記録(その1)

日 時:2012年2月25日(土)13:00-16-00
場 所:ERIC事務所
参加者:上田昌文、梅村松秀、角田尚子、上村光弘、高柳葉子、角田季美枝、福田紀子、三宅叶夢
内 容:             
(1)本日の検討課題
(2)ゲーム「ネゴシエート・キラー」の評価
(3)リスクに対するさまざまな立場について
(4)リスクコミュニケーションの評価の視点
(5)評価の共通のキーワード、自由討議

****************

(1)本日の検討課題(ペア/3名)                                   

・ペアないし3名で検討→共有
○ゲーム「ネゴシエート・キラー」の進め方        
○原発の当事者、当事者とは何か 
○リスクの比べ方        
○データの読み方
○リスクに対する立場の違い   
○ガイドラインの検討
○ゲームの評価の視点  
    

(2)ゲーム「ネゴシエート・キラー」(*1)の評価                                               

1)前提:ゲームの目標
生活習慣病のリスクと選択
           =現在の生活習慣病の原因に気づく、改善についての選択肢を知る

2)評価の視点(ひとりずつ→共有)
 a 何を学んだのか、どのように活かせるのか
 b ゲームの進め方(他に進め方があるのか) 
 c ゲームの対象 企業戦士になぜ設定するのか?
  例:高齢者  転ぶのがこわいから出かけない→人とつきあわない
         耳が遠いから人とコミュニケーションとらない→情報が入らない
    厳しい選択の結果「●をとると▲がなくなる」が予想出来るのではないか

3)活動
・a〜cのテーマ毎にグループに別れて検討する(10分)→共有

・共有の内容:

a 何を学んだのか

 •健康管理はリスク管理 
 •自分で選択すること
 •健康に良い事ばかりが人生じゃない?
 •選択力をつける=選択出来る環境を作り出す力
  *自分の選択が通るか通らないかを考えなければならない
   選択とは環境とのインターラクション(相互作用)
   →環境をつくりだす力
 •どんな会社が良い会社か?
   ご長寿会社型
   短期決戦大もうけ型 (3年で人が入れ替わってもよい)
  「会社を評価する」こともできる

b 進め方の工夫

 ●カードを一定の並び方にする
  ・特定のカードは一定のタイミングで出す
  ・最適な並び30枚
  ・昇進値がクリティカルになる並びにしておく
  ・知識系が続くと進行が単調になる
  ・カードの並びが一定であれば比較が出来る

 ●男性型の働き方が想定されている
  ・男性が対象の「つきあい」が多い
  ・セクハラ、パワハラ系
  ・ふりかえりの仕方→女性が不利等
           なぜ、女性が会社で出世しにくいのか?を発問するとよい
  ・子育てや介護との葛藤がない、健康との葛藤のみ
  ・新入男性社員を想定
   健康の事を考えてもらうためには他の様子もあっていいのだが、シンプルな「競争」の方向の方がゲーム的によい
  ・子どもの世話→規則正しい生活→「健康的とは」にはならない
  ・「上司」が負荷、ストレスが高い

 ●同世代(新入社員)を想定しているので世代間に距離がある(年金世代等)
  ・現在の個人データを問われるとリアルになる
  ・血圧
 ・高齢者でもスポーツジムで熱心に運動をしている人等健康志向に差がある
  ・病気になっても家族との関係がふかまってQOLが上がったともいえる

 ●年齢に関わらず健康に気を使う、知っている、行動する、お金をつかう等の差がある
研究会記録(その1)_a0204507_23414149.png

 ●始めに血糖•血圧•コレステロールについてレクチャーがあるとよい
  ・クイズで知識を共有しているので、最初にレクチャーがない
   →まず基本的な事を学んだ方がよい

 ●ゲームノートをつくる
  ・健康に時間、お金、エネルギーをどう使っているのか?
  ・平均的にこうだけれど、自分はどう選択したいのか?
  ・改善のポイント:スコアカードを書いていく。
    *スコアカードをつけると学習効果が高まるが、ゲーム性は減少する

 ●条件カード、チャンスカード
  ・プレイヤーに条件カードを与える  例:血圧 130/70
  ・条件は他の人にはわからないようにする。
  ・ボーナスポイントを設定する。チャンスカードとして3回行使できる
  ・ジョーカーなども考えられる

 ●カムカム→歯の健康について等その機会を活かす
 
 ●人生の転機が健康や昇進と関わらない設定になっている
  ・人生の葛藤、ステップをすごろくに入れる
    「結婚」「子育て」「離婚」「介護」等
    生涯賃金、契約社員などの違い等も検討
 
 ●キラーとプレイヤー
  ・なぜ、キラーは3人必要なのか?
   →3〜4人でのやりとりに期待
  ・キラーは必要なのか?
   キラーの側とプレイヤーの側の学びの差が気になる。
   「キラー側の学び」は何なのか?生活習慣病に関する学びになるのか?
  ・キラーなしで Yes, Noのカードをひいて行うことができるのではないか

c ゲームの設定

 ●現在の生活習慣病の原因に気づいてもらう事
   野菜不足
   不規則な生活
   人間関係

 ●ゲームの対象が企業の社員がターゲットになっている
  ・女性が抱える葛藤がない(子どもとの生活 他)
  ・既存の枠組を強化する懸念、ワーカホリックだったら仕方ない(追認)
    「気をつけて昇進も健康もゲットしよう」というメッセージ
     死なないでゴール(昇進)できる
     その目標設定がゲームの隠れたメッセージがある
     リスクとうまくつきあって勝ち組になろう
     昇進出来ないリスク 2方向のリスク
    「こんな会社ではだめ、会社を変える!」方向にならない
    このゲームで理想の会社をデザインしようということにはならない
 •結局リスクを学ぶということは、リスクを取ってあたりまえ、とならざる得ない
  
 ●ゲーム「クロスロード」(*2)との比較
  ・「クロスロード」はYes/Noで答える
   例:助ける/助けない
     避難所に行く/行かない
     結果を個人が引受けるのでなく、積みあがっていく
   
  ・(クロスロードより)評価が明確
   例:下の二人など順位づけが多い→ 企業社会の基本の測定メジャーに合う

  ・(ネゴシエート・キラーは)現状追認型なので、どの段階でもその企業風土を変えることにはならない

(補足情報)
*1 ネゴシエート・キラーについては以下を参照してください
http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/csij-newsletter_011_comtool_01.pdf
また、市民科学研究室の「ネゴシエート・キラー」開発をめぐる研究報告書(『生活習慣改善ゲームによる健康リスクコミュニケーション手法の改善実践』)には、この学習会の記録も含めて試行の分析・ゲームの改善を提案しています。以下からダウンロード可能です。
http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/csij-newsletter_011_comtool_02.pdf

*2「クロスロード」については以下を参照してください。
http://www.bousai.go.jp/km/gst/kth19005.html
http://www.s-coop.net/rune/bousai/crossroad.html

また、「クロスロード」を実施したときの勉強会(2011年8月20日)の記録も参照してください。
http://focusrisk.exblog.jp/13598766/


(3)リスクに対するさまざまな立場について                                                 
・活動:現在の社会のさまざまな当事者を挙げる。
   2グループに別れる (10分)→共有

●グループ1
 ・原発の当事者って誰?
  膨大な当事者をどのような軸でわけたらいいか
  ■被害 心理的 経済的 物理的 関係的  大—小
   被害が無い

・原発のリスク2つのフェーズ
  ⅰ 事故が起ってしまった上でのリスク
    失業 親が亡くなる 自治体職員の激減 (社会的インフラがなくなる)
    5月 南相馬市の職員が少なくなる 義援金を配布、複数の原則、調査
    予算が下りてきてもこなせない
  ⅱ 事故が起こるリスク  確率は低いと言われていた
    健康被害はこれからおこるリスク

 ・何が考えられるか
  □個々の対応はクリアーできていても、組み合わせた時に見えなくなる
  □反原発の一枚岩にはなりにくい
  □重層的、広域的になるとどう動いていいかわからない
  □問題意識の濃度差  日常=推進派=はこれまで通り 反対に対応していく
             非日常=後退する
  □広報費 メディアが困っている
   子どものポスター展
  □日常の強さ=仕事として連なっている人が多い程「強い」=東電企業が手強い
   電気料金、原発の利益の循環の方法がある
   Business As Usual これまでが続く
  □電気料金=税金の感覚にならされている

●グループ2
 ・ステイクホルダー(利害関係者) vs 自分とのつながり
 ・Actionを起こす? 起こさない?を考える
 ・多くのステイクホルダーを洗い出す事で、変化を起こせる対象や当事者との関係がみえ
 てくる
 ・「変えられない」なぜそう思うのか? 
 ・自分とのつながりを5W1Hで考える
 ・多くのステイクホルダーを分担してアクションや変化を考える


(その2につづく)

# by focusonrisk | 2012-04-25 23:46 | 勉強会・記録

特定非営利活動法人 市民科学研究室 代表理事 上田昌文さん(その3)

(特活)国際理解教育センター
日立環境財団プロジェクトチーム
聞き取り調査

実施日時:2012年2月25日(月)10:00~12:30
対象:特定非営利活動法人 市民科学研究室 代表理事 上田昌文氏
聞き取り調査者:角田季美枝、角田尚子、福田紀子


3. 教育、とくにリスク教育について思うことはございますか?

生活知と教育現場の科学知の乖離という問題というか、最近、こういうことがありました。

講演会で「日光に修学旅行に行くことのリスクをどう考えているのか」という質問が出ました。そこで私は、「多少高い線量かもしれないけれど、2、3日なら長期間いるわけではないので、それほど大きなリスクはないのでは」というニュアンスで答えました。

それを聞いた人がショックを受けたのです。それは学校で自分の子どもを日光に行かせないという運動をしていたお母さんでした。上田さんがこんなことをいっていたと自分の地元で皆に話したら、メールで批判が届きました。

つらつら考えると、日光に行く・行かないの二項対立で考えると話が進まないことがわかってきました。修学旅行で日光に行かないということを決めた学校があるとします。当然、修学旅行は日光以外にも選択はあるわけで、それは問題がありません。ところがその選択は仮に正しいという社会的認知ができて、すべての学校はここ2、3年、修学旅行に日光に行かないことにしましょうとなったらどうなるでしょうか。日光の観光業者はつぶれます。そのリスクは誰が負うのかという話になります。日光に行かないことで外部被曝のリスクはなくなりますが、他のリスクとどうバランスよく考えるかは残るわけです。

一気に飛び越して「危ないところに行くのはよしましょう」という論理だけですべて語られることがあっていいのだろうか、ということです。

もちろん、すごく大きなリスクなら話は別だと思いますが、日光に2、3日いることは、一回レントゲンを浴びたらすぐに超えちゃうような線量です。そのことのバランスをどう考えるのか、それを議論したうえで学校としてはどうすると決めるならいいと思うのです。そうではなくてただたんに「危ない!」という保護者の声に負けてしまった、「じゃあ、今年はやめます」というふうな動き方だけで決まるとすると、実はいろいろ問題をはらむのではないか。

そういうことを含めて講演会などで丁寧に説明できればいいけれど、結論だけぱっと取り上げてとなってしまうと、話がややこしくなってしまうのですね。

リスクコミュニケーションの問題に戻ると、生活者はいろいろなリスクにかかわっていて
いろいろな科学技術に日々ふれているのですが、それを定量化して自分の曝露状況を調べるとか、どういうリスクが発生してくるか、もう一歩踏み込めばいくらでも考える素材はあるのに、なかなかそこまで踏み込めていません。

研究を企画して一緒にやりませんかというと、貴重なデータを取れる人はいっぱいいるのです。さきほど電磁波の24時間計測の話をしましたが、計測は実はすごく大変なのです。
自分の分刻みの行動記録をとるとか、家庭の中の家電製品の詳しい図面を描くとか求められますから。しかし、そういうことを体験することで本人も育っていくのかなと感じています。そういう関係が市民科学にはいっぱいあります。教育と銘打たなくても、教育効果はいろいろなところで発揮できると考えています。

例えば先ほどリストアップした質問の「あなたが一日台所で使う水の消費量どれぐらいですか?」ですが、どうやったら計ることができると思いますか?

シンクに大きなごみ袋をはりましょう。使った水をその袋に入れましょう、水を入れたごみ袋をもって一緒に体重計にのりましょう。そして自分の体重を引けばいいのですね。

そういう簡単なことでいいのですが、生活のなかで意外と貴重なデータを得られることは多いのです。そういうことを学校教育などいろいろひろげていくことができればと思います。

実はこれは昔の『暮しの手帖』が商品テストでやっていたことなのです。ここの商品テストはおもしろかったのですが、IHの2回特集でメーカーにたたかれたせいか(*補足情報8)、あれ以降、商品テストが商品紹介になってしまったようです。

身近なものの技術を自分なりに批評するのが、そういうところから育たないのは非常に残念です。

IHの商品テストの時も単にIHのことだけをいっているわけではありませんでした。商品を並べて比べて分析することを、身近なことでやっている点が重要なのです。いまの教育にはそれが欠落しています。

暮しの手帖社に商品テストの企画を持ち込んでみたこともありますが、中立性ということで持ち込み企画の商品テストはしないという方針だったようです。

国の機関であれ大学であれ企業の機関であれ、分析装置をもっていてきちんとしたデータを出せるところなら、手を組んでデータを出していくという方向で進めていかないと、あまりにも自分に閉じこもっているとやれることが限られてしまいます。オープンなつながり方をどうやってつくっていけるのかという方向で今後考えていかないと、正直対応できません。

電磁界の測定でも高周波をきちんと測ろうと思うと、とても高価な測定器が必要になります。大学でないと持っていない機械です。ところが大学に話をもっていくと、私たちの立場をいかがわしく思われてしまうわけです。「国の基準で認可されているものをあらためて測定することを私たちはしません」と、大学の先生は平気でいうのです。

研究費をもらっている側からすれば、国にたてつくような種類の研究をするような団体と提携するのはどうなのか、みたいに思われたのでしょうか。それはちがうのです。「あなたたちのやっていない研究デザインをもっているから一緒にやりませんか」といっているだけなのです。そこを乗り越える何かをみつけていかないと。どの分野でもこのような課題を抱えていると思います。

データなしにものをいっているということは、リスクコミュニケーション的にも重要な問題です。

計れるものがあり、計れる対象も計るべき対象もあるのに、そこをすっとばして危ない・危なくないに容易にいってしまうのは、両者にとって本当によくないことです。生活者の側から計る側に自分が変わっていくというスタンスに持っていくことが重要です。


補足情報(8)
IHクッキングヒーターの特集は『暮しの手帖』第四世紀2号(2003年1月)。それに対して関西電力ほか電力業界からの反論を受け、3号(3月)でさらに検証した特集を組んでいる。暮しの手帖では商品テストの内容などはインターネットで紹介していないが、以下で概要を知ることができる。
http://www.kanagawalpg.or.jp/txt/setnews2003.html
http://www.ene-web.com/fujikoyu/member/cheers/0304.html


4. 今回わたしたちが開発しようとしている教材および人材育成プログラムについて、ご提案などございますか?

ひとつには生活者の科学のあり方の理論化を痛感しています。

受け止める側からどうとらえて問題が起きたときに対処するかという整理の仕方が不足しています。

たとえば、ヒューマン・バイオロジーのような、自分の体のことを発生の段階から理解する、学ぶことはあたりまえのはずだが、日本の保健体育、理科でどれぐらい扱われているのか。微々たるものです。

電気がどこから送られているか、それは電気代にどれぐらいはねかえっているかについても教えていません。

学校で、およそ科学とはいえないような、結果だけを鵜呑みにするような教え方がされています。生活者と科学のかかわりは多くあるのですが、日本の理科、家庭科の教育ではほとんど抜け落ちたままです。そこを系統的に組み合わせてつなげていかなければなりません。理科室でするのが科学であると、ぜんぜんそうでないのにそう思わされているのです。科学の日常化というか、科学の社会的側面を理解する必要があります。

その次にいいたいのは、既存の研究機関と消費者グループなどの運動グループとが容易にやりとり(計測器の貸し借り、インターンシップなど)ができる制度的なものが足りないということです。個人的なつながりを通じてしか大学との提携ができないのにはいらいらさせられます。

いろいろな大学に「サイエンスショップ」ができ、市民や企業とつながりができるといいのではないかと思います。サイエンスショップというのは、オランダで開発された、大学の外から研究課題が与えられて大学院生が1~2年間研究して社会に公表する仕組みです。

また、日本全体にいえることですが、多くの市民にとって、生活することと政治意識のつながりが見えないままなので、「生活を良くするために政治的な手段を使う」という主体性を身につけることが必要です。

日常の買い物にしろ、政治的な側面があるのですが、そういうところに意識が育っていません。今回の放射能が典型的です。学校は保護者と行政との対立の板ばさみで、自ら話し合いの場を作って動くということができない。保護者も、自治体はどうしてくれるんだ、ちゃんとしてくれというばかり……という構図ができあがってしまう。

最後に、政策形成や科学技術研究開発のシステムに関する知識が科学者にあまりにも少ない。これは本当に困ってしまっています。

総合科学技術会議で何をしているか、ほとんどの研究者が知りません。科学技術基本計画は誰がどう決めてどう自分の生活にかかわってくるのかについても、関心がありません。科学はお金がないといけない事業です。研究プロジェクトを動かす人は、全体の動向を知っていないといけません。大学院生でこれから科学者になろうという人であれば、うちのボスがどうやって研究資金を調達しているのか把握していないとまずいと思います。

ボスは政治的に動いているのですが、政治的に無自覚です。国の動きに加担していることなので、お金をとってきただけではすまないところがある、という点がわかっていません。研究のお金のめぐり方、回り方の問題であり、原子力はその典型です。外側から見たらどう見えるかがわかっていません。そこを自覚してもらわないと困るのです。

お金の流れをどう見える化できるかについて、明らかに大学、国の行政だけではなく、マスコミを含めてうとかったと思っています。原子力をめぐるお金の動きを調べてみましたが、一番公表したい内容もあるけど、公表したらたたかれるだろうなと思っていることもあります。つまり、お金を動かしている側(例えば経産省の担当官)の経験からみたら、こちらが「これはこうじゃないか」という解釈をしたら、「あいつわかっていない」ということがけっこうあるだろうと思います。

公表するには全体構造がわかるように、かつ、内部の関係者がはっと感じるよう、工夫しないといけません。そうしないと相手と話ができなくなってしまいます。

大きなお金の動きについては、国会議員でも必ずしも全体構造がわかっているとは限りません。どう提起していくべきか・・・・・・。

科学技術社会論学会のようなところが本当は踏み込んでほしいのに、メインストリームの話が出てきません。自然科学や工学の研究において、本当に革新的・先端的なことを研究している人は全体の1~2割。のこりは、私の印象では、既存の研究の穴埋め作業的なことを延々とくりかえしています。たとえば電磁場の人体影響について言うと、Aという研究では、こういう動物に電波をあててみたらこういう範囲の影響が出ました。Bではちょっと曝露条件を変えてみたら、データがこうなりました。それが新しい論文になっています。つまり、今の基準を変える必要がありませんという論文をいっぱい出しているわけです。

総務省の電磁場の人体影響に関する研究枠では毎年20億円出ています。調べてみたら、受け取っている研究者も毎年同じ顔ぶれです。明らかに似たような結論を出すような研究に、国民の税金を使っているわけで、研究者の良心があるのかといいたくもなります。ただ、それを覆して批判するのは大変困難です。

*本記録は、角田季美枝が原案を作成し、上田さんに加筆修正いただいたものである。なお、補足情報は国際理解教育センターで追加した内容である。

# by focusonrisk | 2012-04-04 11:35 | 聞き取り調査